1 くらえ! あたしのチョコレートケーキ!

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あたしは天童紘汰を待ち伏せることにした。 あたしはクラブハウス前で天童紘汰を待ち伏せた。リエは「アホくさい」と、言い残して先に帰ってしまった。確かに他人からみれば「アホくさい」こと。しかし、あたしからすれば誇りをかけた戦い。それをいくら親友でも他人に分かってもらいたいとは思わない。 白亜の校舎を真っ赤な血のような光を放つ夕焼けが染める頃、あいつはやってきた。 三人連れで談笑しながら歩くあいつの元にあたしは駆け寄った。 あいつはあたしに気がつくなりにあっけらかんとした表情で言った。 「おう、白鳥さんじゃないか。今帰り?」 よくもまぁいけしゃあしゃあと…… 折角の手作りケーキを不味いと言ってあたしを泣かせたことはもう忘れているのかお前は。あたしはあいつを指差した。 「ちょっとあんた! さっきはよくもケーキ不味いって言ってくれたね! 悔しいからもう一回作ったの! 食べなさい!」 すると、あいつの両脇にいた友人と思しき男が引いたような顔をして距離を取った。 「お前さぁ…… 女子の調理実習の料理に不味いって言ったのか? ありえないぞ」 そうそう、これが普通の反応。やっぱりあいつの方が間違っていると言う確信を得た、あたしはニヤリと笑い口端を上げた。 「そうだぞ。どんなケーキか知らないけど女子が作ってくれたものを不味い言うなんて男の屑…… いや、人間の屑だぞ」 あいつは申し訳無さそうに目を背けた。友人二人いいぞ! もっと言ってやれ! しかし、「どんなケーキか知らないけど」の言葉が引っかかったあたしはここでトドメを刺しにかかることにした。 「あの? 良かったら食べます? 少し余ってるんで」 友人二人は歓喜の表情を見せた。あたしがチョコレートケーキを差し出すと、友人二人はそのまま手づかみでケーキを食べにかかった。一口、二口と口に運ぶ度に陸上部のトレーニングで疲れた表情に活気が戻る。 疲れた体にチョコレートとはよく言ったもの。走って消費した糖分の補給にもなっているのか自然とほっこりとしたえびす顔になる。 別にこれを狙ったわけではないが、これで美味しいと言ってくれれば勝利は勝利。 友人二人の表情が急に険しくなり、あいつを軽く睨みつけた。 「お前、このケーキを不味いって言ったのか?」 「ああ、苦かったからな」 あいつは一切悪びれずに言った。少しは悪びれたらどう?  「こんな美味しいケーキを不味いってお前贅沢すぎるだろ」 「うち、和菓子屋だから甘いものは食べ飽きてるし」 「和菓子の甘さってあんこだけだろ? あんこで舌でもイカれたんじゃないか? お前、これ食べてあの子に謝れ? いいな?」
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