6 頭に唐菓子の詰まったような女、莫迦梵梵たる男

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お前のおかきは甘すぎるんだよ。塩辛さが無い!」 「な…… それ個人の好みでしょ」 何この不条理さは。個人の好みで敗北する訳? 小麦粉と米粉で揚げたものに文句はないのに揚げ餅に蜂蜜が合わないって個人の好みで敗北するわけ? あたしは落胆し、肩を落とした。 「それに、唐菓子ってなんだよ。俺の知ってる唐菓子は茶巾袋にあんこを入れて揚げたもんだ」 それ、あんたの店で扱ってる唐菓子ってだけの話でしょ。あたしは反骨心タップリの目で天童紘汰を睨みつけた。 「うちの店で扱ってる唐菓子も何回も何回も姿変えてきたんだけどな。平安時代から伝わってる言葉をお前に送るわ」 正直、予想は出来ていた。それに返す刀も既に用意している。 「頭に唐菓子の詰まったような女だな…… 袋詰めにしたんだったら全部美味しくなるようにつくれよ。こんなんじゃフルーツドロップのハッカ味みたいに退けられるぞ」 い、言うに事欠いてからに…… 蜂蜜の揚げ餅はハッカ味扱いか。確かに最後まで残るものだけど…… 「あんたみたいな莫迦梵梵のためにその辺のあられみたいに塩辛くするつもりはありません!」 「だったら醤油にザラメ砂糖まぶしてみろよ! 蜂蜜の比じゃないくらいに美味しくなるぜ!」 「それこそタダのあられじゃない!」 「餅米を揚げたものには甘辛い味付けが一番合うんだよ! お前のは何だ! 中身も外身も甘いじゃないか! ありえねぇぞ!」 「人がせっかく使ったものを馬鹿に出来るあんたがありえないよ!」 「うるせぇ! 不味いものは食わせんな! ドブスが!」 ド…… ドブス…… 小学校の喧嘩のやりとりみたいなこと言いおってからに。あたしはその安い挑発に乗ってしまった。 「なによ! このハゲ!」 売り言葉に買い言葉だ。しかし、ハゲでもないのにハゲと罵倒するのは流石に酷いかな? 「ハゲじゃねぇよ!」 それを言う天童紘汰の顔は明らかに焦っていた。お父さんかお爺さんが髪が薄くて心配してるのかな? ダメージは小さくないようだ。 一触即発、もう手遅れかもしれない…… そんな状況の中、次の授業の先生が入ってきた。ただならぬ雰囲気に臆して回れ右で教室から出ようとするが、すぐに間違っていないことに気が付き教室に戻ってくる。 「もういい! あんたに食べさせるお菓子はもうない!」 あたしは涙目で机に突っ伏した。先生は困惑しつつも普通に授業を開始する。 ああ、あいつにお菓子戦争なんて仕掛けたのがそもそもの間違いだった。食べても美味しいどころか罵倒しか出てこない奴のために振るう腕はない。 お菓子戦争は「美味しい」と言わせることが出来なかったあたしの負けでいいや。 悔しくないと言うと嘘になるが…… 相手が悪かったと思い、諦めよう。 負けず嫌いだが、完璧に敗北、いや、常識の通用しない象と蟻が戦うような勝負ともなれば話は別だ。 こうして、お菓子戦争はあたしの敗北に終わった……
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