7 開けてびっくりな缶詰

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7 開けてびっくりな缶詰

 お菓子戦争はあたしの敗北に終わった。だが、それはいい。あたしも負けたことは悔しいとは感じるが涙を流す程ではなかった。それどころかもう二度とあいつの為にお菓子を作らなくてもいいと言う開放感で心はスッキリとしていた。 入学当初の数十日の状態、調理実習で調理(つく)ったチョコレートケーキを不味いと言われる前の関係、つまり、友達でもなんでもなくクラスは同じだけど話も何もしない関係に戻っていた。 あれから数ヶ月の間、何度か調理実習はあったが、あいつに調理(つく)ったものは食べさせていない、他の男子には食べさせてるけどね。 夏の残暑が完璧に終わり、肌寒くなり、無理して夏服を着ていた子もついに観念して冬服に切り替えだした。 そんなある日のこと、流行性の風邪で天童紘汰が長期の欠席をすることになった。まぁ、あたしにとってはどうでもいいこと。クラスの男子が流行りの風邪にやられたのだろうという軽い感覚でしかなかった。 天童紘汰、ついに風邪で一週間の欠席。本当に今年の風邪は性質が悪い。弟にもマスクの着用を徹底させないと。耳にくい込む紐が嫌とかこういった苦痛の声は受け付けない。 担任のたまこ先生は毎日天童紘汰の病状を報告こそするが、一応徐々に徐々に良くなっては来ているみたい。 授業終了後、たまこ先生は天童紘汰の机を漁っていた。この一週間で溜まったプリントの回収だろうか。クラス行事のお知らせや、校内新聞などのプリントというものは案外溜まるものでちょっとした束になっていた。たまこ先生はそれを見て「ふぅ」と軽くため息を吐く。 「どうしたんですか?」 あたしはプリントの束を持ってアンニュイな顔をするたまこ先生に声をかけた。 「出席日数が足りなくなってきてるのよね」 「天童くんですか? 病気だから仕方ないんじゃ」 「彼、遅刻が多くて欠席が積み重なってるのよ…… 後、寝てることも多いせいか、先生方の評判も芳しく無くて」 「はぁ、そうなんですか」 あいつがどうなろうとあたしにとっては知ったこっちゃない。補習地獄でもどうとにでもなるがいい。 「ここにきての一週間連続欠席…… 電話で聞く限りだと体調は回復してるみたいだけど、本調子じゃないとかで」 給料貰いたさに仕事外で足を怪我したのに松葉杖姿で勤務(仕事はほぼ何もしない)給料泥棒のサラリーマンもこのユルさを見習って欲しい。 「あたしも一回家訪ねておきたいんだけど…… 学校行事とか色々あってね……」 病気の生徒より優先される学校行事とは何なのだろうか。 すると、たまこ先生は手をぽんと鳴らした。
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