7 開けてびっくりな缶詰

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使用人のおじさんは天童紘汰の姿を見るなりにペコリと礼をする。この屋敷では御屋形様と言った感じなのだろう。 「よお、プリント届けに来てくれたんだってな」 「べ、別に…… 先生に頼まれたから仕方なくよ」 あたしは首を背けて天童紘汰と目を合わせないようにした。そして、鞄からプリントの束を出してテーブルの上に叩きつけるように置いた。 「じゃああたし帰るから」 「おいおい、もう少しゆっくりしていったらどうだ?」 「本当に要件これだけだから」 「お茶もお菓子もまだまだお代わりあるぞ」 「いいえ、結構ですから」 あたしはソファからスッと立ち上がりリビングを出ようとした。天童紘汰とすれ違うと同時に彼はよろりとその場に倒れ込む。あたしは驚いてその場に立ちすくんだ。 「若!」 使用人のおじさんが血相を変えて天童紘汰に駆け寄る。若って呼ばれているのか……  やっぱり浮世離れした御曹司様は何かが違う。 「若! 無理をなさるから」 「いや…… いい」 あたしはどうしたらいいのだろうか。プリントを届けに来ただけなのに変なことに巻き込まれるような気がしてたまらない。 「爺…… 部屋に戻って横になればいいから。もう心配しないでおくれ」 「で、ですが……」 使用人のおじさんも「爺」と呼んでいる。じいやばあやなんて現物を一生見ることは無いと思っていたがまさかこんな身近にいるとはと言う驚きをあたしは隠せなかった。 あたしが物珍しそうな顔をしていると、天童紘汰が声をかけてきた。 「悪いんだけど、肩貸してくんね?」 それこそあたしより逞しいじいやに頼みなさいよ。しかし、無碍に断る理由もない。 あたしはやれやれと言った感じで天童紘汰に肩を貸すことにした。 「貸したら返しなさいよ」 「お前、何か俺にトゲトゲしくね?」 自分の胸に手を当てて考えなさいよ。あたしは4月から始まる暴言全部覚えているんだからね。 「部屋までで一億万円、ローンは不可、カラスがカーと鳴いたら一割増しね」 「グレーゾーン通り越してドブラックじゃねぇかよ」 「いいから早く部屋行くよ」
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