7 開けてびっくりな缶詰

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あたしは天童紘汰に肩を貸して長い廊下を歩く。お金持ちの家は何故にこんなに無駄に広いのだろうか。お金持っているから家が広いとしか言いようがない。 暫く歩いていると様々な花の芳しい香りが鼻の中に入ってきた。廊下の脇には夥しい数の花がずらりと置かれていた。 付けられた名札の名前を見れば誰でも知っているような企業名だったり、著名人の名前が書かれていた。 「これ全部見舞いの花?」 「別にいいって言ってるのに……」 「早く治って欲しいって気持ちなんだからそんな言い方しなくても」 老舗和菓子屋の御曹司の風邪が長引いただけでこんなに見舞いの花が届くのか…… 天童紘汰って実は凄い奴? 「礼儀の問題だよ。あ、部屋ここな」 あたしは天童紘汰の部屋に入った。彼の部屋はキチンと整理が行き届いていた、置いてあるものは電気屋さんでしか見ないような100型テレビ、それに繋げられた各種ゲーム機…… 次世代機が全機種揃っているのは圧巻としか言いようがない。流石はお金に不自由しないお金持ちと言ったところだろうか。机の上にはお菓子に関する専門書がずらりと並べられている。 和菓子の専門書はもちろん、洋菓子のレシピ本などと言った世界中のお菓子の本ばかりだ。洋菓子の本、一冊貸してくれないかな? 天童紘汰はベッドの上にちょこんと座った。それだけで深く沈む、柔らかふかふかのウォーターベッドというやつだろうか。それからゆっくりとベッドの上で横になる。 「じゃ、あたし要件終わったから帰るね」 あたしは天童紘汰の部屋から出ようとした。すると、天童紘汰はベッドから手を伸ばしてあたしの手を掴んだ。ここだけシーンを切り取るとホラーとしか言いようがない。 「なあ、ちょっと側にいてくれよ。病気の身で一人きりだと心細いんだよ」 世界一嫌なスタンド・バイ・ミー宣言だ。これに付き合う義理は無い。 「知らないわよ。家族の人なり、さっきのじいやなりに一緒にいてもらいなさいよ」 「そんなこと言わないでくれよぉ…… 俺には一緒にいてくれる家族なんかいないし、使用人達も店のことで忙しいんだよ」 あたしが店に来た時、おばちゃん店員が暇そうにしていたけど…… 待機も仕事か。他の皆様も敷地内の工場で和菓子を作るので忙しいということですか。 「大きな工場が見えたんだけど」 「あ、ああ…… あれみんな材料の工房だよ。うち、醤油とか砂糖とか調理酒とか皆自家生産だからな。和菓子工場って言うよりは樽置き場って感じだな」 「大規模ねぇ」 正直、天童赤鷹の企業体制なんかに興味は無い。あたしは足早に部屋から出ようとするが天童紘汰は手を放してくれない。なんなのよこいつ。 「あ、喉乾いてきたな」 「公園で水でも飲んでなさいよ」 あたしはこっぴどく突き放した。あたしに厳しさ100%で接してくる相手にはそれなりの対応をさせてもらう。
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