7 開けてびっくりな缶詰

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「失礼を承知で言わせて頂きますが、朴念仁でいらっしゃいますね」 朴念仁と言われてもな…… あたしは鈍感なつもりは自分では無いんだけどな…… あたしが暫く黙り込むとじいやさんが重い口を開いた。 「若の話を致しましょう。興味が無ければ右から左に流してもらって結構です」 あたしはあいつに興味無いし、知りたくないんだけどな。右から左に流していいと言うなら遠慮なく流させてもらおうじゃないか。 「若は知っての通り、天童赤鷹の跡取り息子で御座います。男ながらに箱入り息子、幼き頃は蝶よ花よと育てられました」 蝶よ花よは多くは女児に対して使う言葉なんだけどな。あの家なら男に使っても不自然ではないか。 「父は和菓子職人、母はファッションモデル…… と、言いましても結婚した時にはお歳を召してましたのでファッションデザイナーに活動を切り替えてましたが」 母親がファッションモデル…… 道理で眉目秀麗の美形だと思った。 「結婚の際にファッションデザイナーを辞めて歴史ある和菓子屋の女将になると誓っての結婚だったのですが…… 包丁よりも裁ち切り鋏が好きなような方でしたので、程なくして若を置いて離婚をなさいました。財産分与の話もなく唐突に出ていかれたので、女将を辞めたくて辞めたくて仕方なかったのでしょうね」 「はぁ……」 話がシリアスになってきた。 「子供、つまり若です。連れて行こうとしたのですが、この店の跡継ぎですので、そんなことは許されません。大旦那(祖父)さまも旦那(父)さまも若を奥様より無理やり引き剥がしました」 「そんな……」 「そのようなわけで若は片親として育つことになったのです。幸いというかなんというか、天童赤鷹には女性従業員が多くおりましたので、皆、若を本当の息子のように育ててくれました。若は女性従業員を皆、母と思い育ったのです」 お母さんがいっぱいと言った感じか。 「優しい母のような女性従業員達に包まれすくすくと育っていきました。しかし、産みの母ではないことを知り、自分を産んだのに捨てた実の母がいることを知ります、これで荒れるところですが、天童赤鷹の御曹司にはこういったことは許されません、旦那さまは実の母を忘れさせるようにひたすら和菓子作りの修行に入らせたのです。その日より、旦那様と若は親子ではなく師匠と弟子の関係になったのでございます」 なんか昭和ティストのスポ根みたいな話。 「その結果、少年の身にして一流の和菓子職人と称されるぐらいに成長したのです」 生まれながらの和菓子屋で良血のサラブレッドに修行をしたのか…… 言い方を変えれば和菓子屋ロボット。
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