8 聖なる夜に丸太を叩き込む

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世知辛い話。近頃はコンビニでショートケーキで済ますって人が多いってニュースでやってたような。その影響かな? その割にはコンビニ店員が店の前でサンタクロースの格好して必死に呼び込みしてるのに売れてるのを見たことないんだけどな。 「何? あたしにケーキ作れって言うの?」 「そう、なるかな? うちの子達もこの前の柏餅作ってくれたお姉ちゃんが作ってくれるなら歓迎だって言うんだけど」 あら、嬉しい。 「クリスマスに暇って事無いよね…… ごめんね。変なこと頼んじゃって」 はい、暇です。あたしは心の中ではいはいはい! と低学年の児童のように挙手を繰り返した。 「暇……」と、あたしは蚊の鳴くような声で囁いた。 「え?」 「暇って言ってんのよ!」 あたしの衝撃のカミングアウトの叫びを聞いた瞬間に梟首一郎は驚いたような顔を見せた。 「暇なのは良いんだけど…… ひょっとして、白鳥さんって今フリーなの?」 フリーもフリー、超ドフリー。彼氏に随するほどに尽くしている男性は弟しかいない。 それどころか恋愛の意味で「好き」と言う感情を抱いた男性すらいない。 「ああ、そうなんだ…… じゃあ当日はうちのクリスマス会参加ってことでいいね」 「微力ながら、腕によりをかけさせてもらうわ」 「そんな、微力だなんて」 「それで? どんなケーキにすればいいわけ? 皆でわけわけするようなデカイケーキは流石に無理よ」 「そのことなんだけど…… 毎年毎年、切り分けると『僕の方が小さい』『あたしサンタさん食べたい』『Merry Christmasのチョコプレート欲しい』って揉めて喧嘩になるんだよ」 あたしは苦笑いをした。ああ、どこも同じなんだな…… あたしも弟と砂糖の味しかしないサンタクロースを取り合ったことがあったなぁ、その横に置かれた茶色のトナカイが総チョコレート製の人形でそっちの方が良かったと嘆いたのもいい思い出だ。 「それで、取り合いにならないように今年からは一人一個、全員同じケーキにしようかと思うんだ」 「ショートケーキみたいに切り分けるの?」 「白鳥さんがこれで負担かからないって言うならこれでいいんだけどね…… 切り分けないケーキの方がいいかなって…… えっと、クリスマスのケーキにそんなのあったよね? 小洒落た名前のナントカカントカって」 ナントカカントカじゃ分からないよ…… クリスマスケーキと言えば…… 「ブッシュ・ド・ノエル?」 「え? 何それ?」 「丸太みたいな形したやつよ」 あたしはスマートフォンでブッシュ・ド・ノエルを検索して、梟首一郎に見せた。 ブッシュ・ド・ノエルの画像を見て梟首一郎は納得したように手をぽんと叩いた。 「そうそう、それそれ」 ブッシュ・ド・ノエル。ケーキの一種、フランス語でノエルがクリスマス、ブッシュが丸太で、和訳するとクリスマスの丸太と言う意味になる。 何故丸太の形なのかは諸説あるが、一番有力なものとしては誕生したイエス・キリストを守護(まも)るため、夜通し暖炉で薪(丸太)を燃やしたことが由来とされている。
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