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ブッシュ・ド・ノエルはケーキの中でも比較的に簡単に出来る。当日一発勝負でもいいかなとは思ったけど、あたしも久しぶりに食べたいと思ったので試作品を作ることにした。例によって調理実習室を借りている。材料を用意し、印刷したレシピで作り方を確認しているあたしは不愉快な気持ちに襲われていた。
「なんであんたがいるのよ」
あたしの横には天童紘汰がいた。なんでこいつがいるだろうか?
材料を集め、さてこれからと言う時に「入るぞ」と言わんばかりに家庭科室に乱入してきたのだ。
「随分な言いようだな。折角手伝いに来てやったのに」
「いいえ結構、一人で十分です」
「いやー フッキーに話聞いて心配になって」
「心配無用です。さっさと部活行きなさいよ」
「冬休み前で部活動停止ですー」
「ならさっさと仕事行きなさいよ」
「猫も杓子もみんなケーキばっかでうち今暇なんだよ…… この時期はあんこが余って余ってどうしようもねぇんだよ。クリスマスが終わると餅の季節になるからいきなり忙しくなるんだけどな」
和洋折衷と言うならクリスマス和菓子を考えればいいものを……
「しかし、クリスマスに施設の子どものためにケーキ作りとは…… お前、案外暇してるんだな」
「暇で悪い?」
それを言うあたしの声はドスが効いていた。
「いや、お前、優しいんだなって」
「家族で過ごすものだと思っていたけど、その家族がみんな出払っている以上は仕方ないでしょ」
「俺なんてオフクロはいねぇわ、オヤジは東京でお偉方に和菓子作ってるわで、クリスマスに皆で集まったことすらねぇよ」
悪いこと言っちゃったかな…… あたしは少し反省した。
「この前のじいやさんとか従業員のみんなとかで祝わないの?」
「さっきも言ったようにクリスマスは和菓子屋がやることなんてねぇからな。皆に暇出してる。じいやも実家に帰って孫とクリスマス祝ってるよ、従業員の皆も似たような感じだ」
「フリーのあたしが言うことでも無いんだけど…… あのその…… 彼女さんなんかは? あんただったら一緒に海外とか行く相手とかいるんじゃないの? こんな寒い日本より、南…… そう、オーストレィリアあたりで一緒にのんびり水着で日焼けとかしてるのもいいかもよ」
「ば…… ば…… 馬鹿野郎! そんなのいねぇよ」
天童紘汰は赤面し必死に否定した。あたしはそれに構わずにブッシュ・ド・ノエルの試作品の作成に取り掛かった。
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