8 聖なる夜に丸太を叩き込む

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そしてクリスマス当日。あたしはブッシュ・ド・ノエルを作るために学校の調理実習室に来ていた。こばと園のスタッフにお願いしておいた材料のチェックをするが、チョコレートだけがどうしても見つからない。 「チョコレートが見当たらない……」 すると、こばと園のスタッフが青ざめたような顔をしてこちらに駆けてきた。 「あれ? チョコレートが無いんですけど」 「た、大変です! チョコレートを発注していたお店のトラックが事故に遭いまして!」 何ということか。クリスマスの日に事故とは何と運の悪い。 「それで、運転手さんは無事なの?」 「詳しいことは分かってませんが軽症とのことです」 良かった…… あたしはそっと胸をなで下ろした。 「それで…… チョコの方なんですけど」 運転手さんが心配でそちらの方に頭が回っていなかった。 「ぶつかった衝撃でトラックの冷却機能が壊れたらしく全部ドロドロに…… 運転手さんも仕入先の社長さんもすごく謝ってました」 NO WAY! ありえない。つまりチョコレートを使うことは無理と言うことか。あたしはすぐさまに家庭科室から駆け出した。 「あの、どこへ?」 「決まってるでしょ! チョコレート買いに行くんです! この辺りのスーパーなりコンビニ回ればチョコレートぐらいあるはずです」 「そう思って、この辺りの商店全部回って箱買いしたんですけど……」 こばと園のスタッフの右手にはビニール袋が握られていた。その袋の中には板チョコの詰まった箱がいくつかあるが、とてもでは無いが今回のブッシュ・ド・ノエルに使うチョコレートには到底足りないものだった。 JESUS! 救世主が生まれた日にこの仕打ちは無いじゃない、神様。 「申し訳無いのですが…… 今回はコンビニの店頭で売っているものを大量買いという形で終わらせようかと」 「そんな……」 あたしは落胆し、肩を落とした。そんなあたしを慰めるようにこばと園のスタッフが肩をぽんぽんと叩く。 「せっかく準備してくれた白鳥さんには悪いのですが…… せめてもの償いとしてうちのクリスマス会を楽しんでもらうことしか……」 「そんな、償いだなんて……」 その時、窓の外を見ると一台の小型冷蔵トラックが校舎に入ってくるのが見えた。コンテナの側面には天童赤鷹のロゴマークが燦然と輝いていた。 何あいつ、家のトラックでご出勤してきたの? あたしは出迎えるように小走りでそのトラックの元に向かった。 トラックの運転をしていたのはじいやさんだった。この前の畏まったような服装と違い、天童赤鷹のロゴの入った作業着を身に纏っていた、正直、そっちの方が似合ってる。 あたしの姿を見た天童紘汰は笑顔で手を振ってきた。のんきな笑顔しちゃって…… こっちはそれどころじゃないのよ。 あたしが天童紘汰に事情を話すとあっけらかんとしながら言った。 「おう、楽できて良いじゃないか」 「そういう問題じゃないのよ!」 「ま、子どもらとクリスマスを楽しもうぜ? 劇とか合唱とかあるんだろ? もろびとこぞりてとかきよしこの夜とか一緒に歌おうぜ? な?」 こちとら鎮魂曲(レクイエム)をソプラノで絶叫したい気分なのに…… 性格には沈みゆくタイタニックできよしこの夜を弾いた楽師の横で歌いたいと言った方が良いだろうか。 「大量のケーキ持ってくのも大変だろ? このトラックにスペース作るからちょい待ち」 天童紘汰はトラックの中に入り、中に置かれたダンボールを隅の方に寄せた。 白い冷気の煙の中より見えた文字を見たあたしの心の中に電流が走る。 「ねぇ? このダンボールの中身って使わなかったりする?」 「はぁ? この時期は余りまくるから店の冷蔵庫にも収まらないんだよ。だからトラックの冷蔵庫も使ってるんだ」 「つまり、使わないってことね」 「そうなるな、それより早く行こうぜ? コンビニ前のサンタさん泣いて喜ぶぞ」 あたしはそれを聞いてニヤリと口端を上げて笑った。
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