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まずはイエス・キリスト誕生の劇、東方より来たりし三賢者を演ずる子どもたちがもみの木の上に輝くベツレヘムの星を見つけて、救世主の誕生を知るシーンからスタート。
聖母マリア様の受胎告知は割愛か…… あたしがそんな事を考えていると天童紘汰があたしに耳打ちをしてきた。急に耳打ちしないでくれる? くすぐったいんだけど。
「去年、赤ちゃんはどこから来るのって年少の子から質問が殺到したからカットの方針になったそうだぞ」
それこそコウノトリやキャベツ畑みたいな話だもんね。誤魔化していい話でも無いし。
そして、馬小屋のシーンに移行。東方から来たりし三賢者が今度は天使の役やってるけど、それは気にしない約束。飼い葉桶に入れられたイエス・キリストの人形を天使に扮した子どもたちが回るように囲む。そして、一人の天使が高らかに叫んだ。
「皆さん、神さまが皆をお救いするために、御子のイエスさまをこの世に送ってくださいました! 私達もいっしょに、イエスさまのお誕生を、一緒にお祝いしましょう」
すると、並べられて椅子に座っていたクリスマス会参加者達が皆スッと立ち上がる。座っているのはあたしだけになっていた。そんなあたしの肩に天童紘汰がくいくいと肘をあてて、立つことを促す。そして、再びあたしに耳打ちをした。
「きよしこの夜は皆で歌うのが恒例行事になってるんだ」
ああ、そう言う感じなんだ。てっきり、子どもたちのソプラノボイスを堪能するものだと思ってた。きよしこの夜をオルガンで弾くのはたまこ先生、あの人、オルガン弾けたんだ…… あたしに言えたことでは無いけど、クリスマスの夕方過ぎの夜の始めにここにいる時点で彼氏とかいないんだろうな。
あたしは僅かにたまこ先生に同情を覚えた。
あたし達はきよしこの夜を歌いきった。皆、一斉に座る。
座った後に天童紘汰があたしに耳打ちをした。
「お前、音程が少しズレてるぞ」
いちいち言わなくていいのに。あたしが音痴なのはカラオケに行ってスピーカーから流れてくる歌声の違和感に不快さを覚えるからよく知っている。歌っている方からすればどうやって音程を合わせればいいのか分からないから是非ともご教授願いたいものだわ。
こんな状態のせいか、カラオケの点数は散々たるものだ。リエ達もあたしとカラオケに行く時は採点機能を切っている。リエ達は「採点時間が勿体ない。採点時間削ってでも多く歌いたいじゃん」とは言うが、その実あたしに気を使って採点機能を切っているのは明らかだ。
それはともかくとして…… 音痴に音痴を指摘すると案外傷つくものよ…… 音程を合わせられてキチンと歌える人はその辺りが分かってない人が多い。
それを差し引いても、やっぱりこいつ嫌いだ。
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