8 聖なる夜に丸太を叩き込む

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劇が終わりプレゼント配布会が行われた。どこからともなくやってきたサンタクロースが子どもたちにプレゼントを渡していく。あれ? あのサンタクロースどこかで見たような。 「あれ、うちの古文の先せ……」 天童紘汰がこう言いかける、あたしは刹那の動きで天童紘汰の口を塞いだ。 「駄目よ。あの人はフィンランドからわざわざ来てくれたの! 中の人なんかいない!」 天童紘汰は何か言いたげに口をもがもがとさせた。そしてあたしは続けた。 「子どもたちのためにアメリカのレーダーをくぐり抜けたのよ! 野暮なことは言わない!」 NORAD(北アメリカ航空宇宙司令部)北アメリカ、及びカナダの航空、及び宇宙の観測と危機の早期発見を目的に設置された組織。24時間体制で人工衛星の観測、及び、ミサイル、不明機の監視などを行っている。 毎年12月24日にはレーダーを使用し、サンタクロースの追跡を行っている。 天童紘汰は口を塞いでいるあたしの手を無理やり引き剥がした。 「お前、案外ノリいいんだな」 白けた目をする高学年はともかくとして、低学年から幼稚園の子の夢を潰してはいけない。 「子供の夢を潰す罪は重いよ」 プレゼントの配布が終わったところであたしは席からスッと立ち上がった。そろそろ、ケーキの時間だ。 あたしは調理実習室の冷蔵庫で冷やしてあるブッシュ・ド・ノエルの回収に向かった。調理台の上にズラりと並べられたブッシュ・ド・ノエル、あたしはそれを一個一個丁寧にプラケースに入れ、赤と緑のストライプ柄のリボンの形をしたシールはプラケースの上にペタリと貼る。それから番重に一個一個並べて入れる。 ああ、番重なんて持ったのは何年ぶりだろうか、小学校の時の配膳係を任された時以来だろうか。番重を見ただけで懐かしく感じる。 番重。主に食品を入れる長く浅い蓋のない箱のことである。 あたしはブッシュ・ド・ノエルの入った番重を積み上げて、台車の上に乗せた。そして、皆の待つ体育館へと向かう。
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