86人が本棚に入れています
本棚に追加
未だに背中を向けている男の後頭部に照準を合わせる。その手は怒りで震えていた。
「最悪よ……あなたたちは、女の私たちを餌食として扱ってるだけ。誰があなたなんかに、私の血を与えてやるもんですか……!」
近くで大きな雷鳴が轟くと共に、窓の外が真っ白に光った。窓辺に置かれたランプのみが灯る寝室に一瞬だけ眩い明かりを落としたその時、男は振り返った。不意打ちの機会を逃した──いや、まだ機会はある。
銃口を向けているオリヴィアを確認した男は眉を寄せ、部屋の扉を立ち塞ぐ彼女へと一歩近付いた。
「動くな! 動いたら撃つ!」
雨と風の音に混じって微かに震える声で威嚇した。男は足を止め、ヴァイオレットに染まる瞳を悲しげに下げてから警告した。
「君に私は撃てない。銃を下ろすんだ」
銃を向けられているというのにやけに冷静さを保っている。大概の人間ならば、死ぬ覚悟が出来ていない内はいつ銃口から弾が飛んで来るのか分からない恐怖で銃口を見つめる筈だ。それなのに、男はこの現実を意に介していないように視線を床に落とし、まるで第三者の目線でオリヴィアを説得している。ひょっとして、死ぬ覚悟が出来ているというのか。
いや、どうせ撃てないと思っているに違いない。籠に囚われている鳥が羽をはためかせて抗っているだけだと、小さくて脆い嘴では鳥籠を破ることなど不可能だと、蔑んでいるに違いない。オリヴィアの腹の奥から怒りが沸き上がる。これ以上、侮辱することは許さない。
「っ──私を見ろ! レオン・バトラーッ!!」
最初のコメントを投稿しよう!