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【エルシーア海軍所属・アルスター号にて】
日没前の天測をしなくてはならない。
ベリル副長に怒られる前に、六分儀を持ってきて準備しなくては。
焦るシャインは急いで士官候補生たちの部屋としてあてがわれている、アルスター号の船室に向かっていた。
この古い老朽艦はいつもひっきりなしに軋み声を上げている。
激しい横波を受けていつ船体がバラバラに崩れるか。水兵達が笑いながら会話していた事をシャインは思い出した。
「なんだ、さっきの砲撃訓練は! ローレル、お前の段取りの悪さのせいで、艦長は大変御立腹だ。そして私達も連帯責任で、3日間食事の配給酒なしだ。この間抜けが」
シャインは聞き覚えのある声で、帆布で仕切られた士官候補生部屋の前で足を止めた。ゆらりと靡く帆布の隙間から部屋の中がちらりと覗く。
先任士官候補生のキーファが、床にうずくまった小柄な黒髪の少年の背中を、軍靴で蹴りつけているのが目に入った。
「マストの登り降りをさせればいつも最後で、当直に立てば甲板で居眠り。我々士官は規律を保つために、必要以上こちらから水兵と関わってはいけない。それなのにお前は時々連中の所へ行ってるようだな」
「仕方ないよ、キーファ。こいつは我々と違ってしがない商家の出。なんで貴族の子弟である僕達と同じ船に乗ってるのかはわからないけど…オーギュスト艦長がそれを知ったら、こんな懲罰じゃすまないぜ?」
士官候補生のアルスが、床に倒れているローレルの髪を掴んでぶらぶらと頭をゆすった。持ち上げられたローレルの顔は頬や目の上が赤黒く腫れていた。
シャインは仕切りの帆布を掴んだ。
そしてそれをさっとはね上げて部屋の中に入る。
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