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エスクィアがそっと椅子から立ち上がった。
「トリニティ。貴様、そうやっていつまでも笑っていられると思うなよ? 肝心なのは我々の内の誰かが、アリスディド閣下の失脚を狙っているという事だ。私は閣下の御為を思えばこそ……。悪いが、私はこれにて失礼させてもらう」
いかにも気分を害したエスクィアは、ぎらついた視線で椅子に腰掛ける他の三人を一瞥すると、足早に部屋から出ていった。
「そうだな。物事はまだ終わってはいない」
物静かなコルムも一言吐き捨て部屋を出ていった。
残ったトリニティとオーラメンガーは黙ったまま、グラスに残ったワインを一気にあおった。
「あの事件の真相を知る者は、我々だけではない……」
「そうだな」
オーラメンガーの言葉にトリニティは言葉少なく同意した。
「とにかく南方の情勢も穏やかではない昨今、アリスティド閣下の身に何か起きれば、海軍省も混乱する。オーラメンガー、お前の情報網で裏切者は誰か密かに探ってはくれないか」
「……」
しばしの沈黙の後、オーラメンガーは大柄な体を椅子から起こして立ち上がった。
「いいだろう。私もお前の懸念がよくわかる。調べてみよう」
トリニティもまた立ち上がり、オーラメンガーの両手を握りしめた。
「すべてはアリスティド閣下をお護りするためだ」
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