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旅の準備
父子として初めての旅に、ヨハンは息子より興奮気味でした。向こうで小さな演奏会を開き、フィルも演奏するのです。クラヴィーアにもヴァイオリンにも才能ある息子を披露できるのが、嬉しいのでしょう。ふたりで一生懸命練習する姿はとても微笑ましく、私は奏でられる音楽にうっとりして、繕い物をおいて聴き入ってしまいました。
気配がして扉に目をやると、カールが立っていました。教会の幼年学校から帰ったのです。気がついて、夫は声をかけました。
「カールもおいで、フィルと父さんが連弾するからな。どうだったか教えておくれ」
「いい!」
カールは首を大きく振り、走って行ってしまいました。
「おや、どうしたんだ」
私はほら見てごらんとばかりに、言いました。
「カールは自分も連れて行ってほしいのですよ」
「順番に連れていくよ。兄から順になるのは仕方がないじゃないか」
「そう思うのですけれどね。でもカールは悲しがっています」
「わかった、向こうで何か良いおみやげでも買ってこよう」
それで満足するかしら。何か、カールの気持ちにそぐわない気がしたのです。八歳といえばまだ無邪気な頃ですが、物では彼の気が済まないと思いました。
カールはしばらく膨れっ面でいましたが、すぐに元通り子どもらしく、元気に外で駆け回ったり、兄弟でじゃれあったりしたりしました。
鍵盤楽器の練習も必ず。取り掛かるとしばらく夢中になって、弾いていました。そこへ、フィルがヴァイオリンを弾きだすと、姉と妹も歌いだして、家族に加わってまだ日の浅い私も一緒に歌います。
子どもたちと奏でるひとときは、本当に素晴らしく心の底から喜びを感じ、時の経つのを忘れてしまいます。
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