サイドストーリー その1

1/1
45人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ

サイドストーリー その1

「お久しぶりです、大西さん」 「ああ、久しぶりね。でも、もうその名前で呼ばないでくれる? 本名も川村百合子に戻したんだから。その節は……私の『元』夫が、かなりご迷惑をおかけしたわね」 「いいえ。私こそ……まさか、結婚しているなんて思いもしていなかったものですから……あの当時は大西さん……いえ、川村さんにも随分ご心労をおかけしたと思ってます」 「いいのよ。もう。お互い、忘れましょ? あんな最低男の事なんか、ね。それにしても……世間は狭いわね。まさか貴女(あなた)が……瑞貴ちゃんのクラス担任だったとはね」 「全くですね。貴女が彼女のピアノの先生だったなんて……」 「中田さん、結婚は……しないの?」 「ええ。まだ……そんな気にはなれなくて……」 「もったいない。貴女はすぐにでも結婚するべきだと思うけど」 「川村さんこそ……再婚、されないんですか?」 「私はもう、おばさんだからね。そんなチャンスなんか、全くないわよ」 「そんなことないです。とても、お綺麗でいらっしゃいますよ」 「ありがと。でも、その私から男を奪った女である貴女からそう言われるのは、嫌味以外の何物でもないわ」 「あ……すみません……でも、私、奪うつもりは……」 「わかってるわよ。それじゃ、元気でね」 「はい。それでは、失礼します」
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!