黒歴史の男

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その直感は的中した。 「志望動機は? なぜ家業に入ってわずか一年で弊社を受けられたのですか?」 冒頭から痛い部分に厳しく切り込まれる。 「ホテルの仕事に前から興味がありました。たくさんの人の人生に彩りを添えるお手伝いができることが魅力だと思っています。花の仕事と精神は一緒です」 しどろもどろになりながら必死で答える私を、彼は表情を変えずに眺めている。 彼の目は怜悧で、まるでX線のように相手を見透かす鋭さがあった。 「ならばなぜ、花卉販売業のままでいなかったのですか?」 「それは……」 一瞬ひるんだ私を見て彼はかすかに笑い、手元の資料をめくった。 「失礼ながら、白川花壇の最近の業績は下降に歯止めがかからない状況だとお見受けしています。あらためてお訊きします。本当の目的は?」 「…………」  嫌味ったらしく「志望動機」から「本当の目的」に表現を変えられた時点で、ああもうこの面接は駄目だなと悟った。 なにか適当な返答でこの場を取り繕って退出しようと思ったときだった。
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