黒歴史の男

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「ご気分を害されたなら申し訳ありません。私の職務は、社にたかるいろいろな思惑から社を守ることも含まれるので」  それを聞いた私はすっくと立ち上がった。  たかる、ですって?  図星ではあったけれど、あまりの無礼さに激怒していた。  申し訳ありません、ですって?  謝る気のない謝罪文句ほど不愉快なものはない。  私は立ったまま、正面に座る彼の目を真っすぐに見据えた。 「それなら黙って落とせばいいことではありませんか?」  そう言い放つと深々とお辞儀をした。 「失礼いたします」 背を向け、毅然と顔を上げて出口に向かう。 言うべきことは言った。 プライドも守った。 礼儀も失さなかった。 敗軍として、ここまでは立派だった。 しかしあと一歩でドアに着くという最後の最後で、八センチヒールに慣れていない私は派手に足首をひねって転倒してしまったのだ。
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