黒歴史の男

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「熱いうちに飲めよ」 正面から聞こえた声で、私は回想から現実に戻った。 私の目の前にはカフェオレが置かれている。先ほど彼がオーダーした「ミルクたっぷり、デカフェ」のオーダーは私のためだったらしい。 早すぎる時間に来た私には二杯目なので、デカフェは正直ありがたかった。 熱いカフェオレに口をつけ、ふと考える。 今日はお見合いだから相手に合わせる意味でコーヒーをオーダーしたけれど、カフェインに弱い私は普段もっぱらカフェオレを飲む。 まさかそれを知っていての気遣いだろうか? ところが、そんなおめでたい幻想は一瞬で終わった。 彼は私の着物をしげしげと眺め、フンと笑ってこう言い放ったのだ。 「残念だったな」 彼の視線を辿って自分の右肩を見た私の顔が真っ赤になった。 母がこの着物を選んだ決め手──花文様のひとつに橘の花が描かれているのだ。 橘家へのごますりであり、縁起担ぎでもある。
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