黒歴史の男

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「立てるか? 出よう」  戻ってきた彼が私の腕を取り、立ち上がらせた。 「お会計は?」 「済んでる」 「あの、ご、ごちそうさまでした」 なんとも無愛想な横顔にしおらしく頭を下げた。 でもたったそれだけの動きですら目が回り、ふらついてしまう。 敵に頼りたくはないけれど、今は私を支えてくれている彼の腕が心強かった。 どこに向かうのかわからないまま、腕を引かれてロビーを歩く。 目眩とむかつきが収まらない。 それでも花に関わる家系の血なのか、こんなときにも私の目はロビーに飾られた大きな花のアレンジメントを細かに写し取る。 白川花壇ではない、別の会社が請け負っているものだ。 そこから学び取れるものはないか、この季節、このロビーに自分ならばどうするか、反射的に考えてしまう。 しかしエレベーターに乗せられた時点でようやく私は慌て始めた。 エレベーターは高速で上昇していく。 高層階にあるのは客室だけだ。
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