黒歴史の男

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「ひどいじゃないですか! 意志確認もなしに!」 部屋に入るなり、私は猛抗議を始めた。 「着付けができるかどうかは確認した」 「そうじゃなくて」 「まあいいからじっとしてろ。フラついてるじゃないか」 彼はそう言いながら私の帯を解き始めた。 重い帯が床に落ち、紐が一本解かれる。 少し呼吸が楽になり、私の抗議の勢いはなぜか弱まった。 私に腕を回す彼の身体は圧倒的に大きく逞しく、なんだか自分がひどく弱くなったような気分になる。 彼の視線は私のみぞおちの辺りの固い結び目に伏せられている。 私は慌てて目を逸らした。 絶対に認めたくはなかったのに、なんて魅力的な顔だろうと素直に思ってしまったのだ。 「えらく固く結んだな」 なにか言わなければと思うけれど、今はなにも考えられなかった。 まるで催眠術をかけられたように、身体に力が入らない。 二本目の紐が落ち、はらりと胸元が緩んだときだった。 「ベッドのスプリングを確かめるいい機会だな」 彼の目が意地悪く笑ったのが見えた次の瞬間、私の視界はぐるんと回り、彼に抱き上げられていた。
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