黒歴史の男

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「ちょっ、なにす──」 抗議の台詞を言い終えないうちに、私は背後のベッドに寝かされていた。 彼は私の両脇に手をつき、黙って私を見下ろしている。 ホテルのベッドの上で大嫌いな男に組み敷かれているという絶体絶命の状況なのに、私はただ無言で見上げることしかできなかった。 広く力強い肩。 女とは圧倒的に違う男の体躯。 知的で怜悧な目はきっとベッドの上だけでこんな妖艶な光を見せるのだろう。 逃げなきゃ、と思う。 なのに意志が腰砕けに崩れていく。 それどころか、彼の絶対的な強さと色気の前に、自分を投げ出したくなる。 沈黙のあと、出し抜けに彼が尋ねた。 「気分は?」 「あ、あの、もう大丈夫、です……」 振り絞った声は、我ながらやけに女っぽく掠れている。 これでオッケーしたことになるのだろうか? なにしろ経験がないので、こういう場面の流儀がわからない。 「ここからは自分で脱げ」 いきなりS系の言葉で攻められ、彼を見上げる私の顔がポッと音を立てて赤くなった。 バージンにそんな高度な技はできない。 黙って首を横に振り、目を閉じる。 次に来るのはキスだろうか。それとも──。
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