/315ページ
そうして二時間の宴が終わり 最後の客を送り出したとき、関わるすべての人に感謝を込めて、私は笑顔でインカムに告げる。
「翡翠の間、高梨さま・森下さまご両家、無事にお開きです」
インカムで各部署に伝えるこの瞬間の達成感は疲労も忘れるほどだ。
誰かの人生の大切なセレモニーをお手伝いできるご縁への喜びは、何度繰り返しても変わらない。
多い日には各バンケットルームが一日二回転、ホテル全体では十数組の披露宴を行うときもあるけれど、私たちはひとつひとつが最高のものであれと願い、ベストを尽くしている。
決して流れ作業ではないのだ。
それは花の仕事にも通じるものがあるから余計に感動してしまう。
清掃作業が始まった会場を出ようとしていた私は絨毯の隅に落ちていたスズランの花を拾い、営業企画部まで持ち帰った。
「お疲れさま。ありがとうね」
小さなグラスにスズランを差して労ってやる。
ほんの数センチの長さのスズランは花嫁のブーケから落ちたものだろう。ブーケのままでいれば今頃花嫁の腕に大切に抱かれているはずなのに、折れて落ちればゴミにされてしまうのだから、花の運命は儚いものだ。
頬杖をついて白い可憐な花を眺める。
昔、祖母が言っていた。
『女の子はみんなお花なのよ』
愛されていつか綺麗に咲くのだと。
そう、あの頃は自分も恋をして結ばれて、綺麗なお花になるのだと信じていた。
最初のコメントを投稿しよう!