最初、私はこのお見合いを断固拒否していた。
『就職はともかく、結婚までお父さんの言いなりになるつもりはないわよ。そもそも白川がすべきことは経営改革であって、橘社長へのごますりじゃないでしょ』
しかし私も邪 なもので、父の一言でそれはコロリと一変した。
『相手は橘恭平くんだぞ』
『えっ、橘部長なの⁉』
思わずがっつりと身を乗り出す。
『社長は相手の名前をはっきり出さなかったが、乃梨子が会えばすぐわかる、橘のエースで絶対に間違いのない男だと保証する、とおっしゃったんだ。だったら次期社長の橘恭平くんだろう』
橘恭平という名前が出た瞬間から、 私は父の話をほとんど聞いていなかった。
正直、結婚相手が次期社長かどうかなんて私にはどうでもいい。
彼は私の理想の男性であり、実は遠い記憶のなかの初恋の人なのだ。
『お互いによく知ってる間柄だから釣書は省略したい、ということらしい』
隣では母も舞い上がっている。
『あら素敵じゃない! 僕自身を見て、ってことね』
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