恐る恐る顔を上げた私は再び飛び上がった。
その〝まさか〟だったのだ。
「た、鷹取蓮司⁉」
不躾にも心の中の声そのままに呼び捨てにしてしまい、慌てて口を押さえる。
通った鼻筋に怜悧な切れ長の目。
引き締まった長身の体躯。
額にさらりと落ちる黒髪。
そこに立っていたのは嫌味なほど完璧なスペックを持つ男、ホテル事業統括部部長の鷹取蓮司だった。
彼は橘部長のような血統書つきのサラブレッドではないものの、女子社員の人気を橘部長と二分している。
しかし私は 顔を見るだけで胃がおかしくなるぐらい彼が苦手だ。
原因は出会いにさかのぼるのだけど、とにかく嫌味ったらしくて尊大なのだ。
腹立たしいことに、それはなぜか私ピンポイントで発揮される。
「お疲れさまです」
きっと仕事かなにかで偶然通りか かったのだろうと思い、早く立ち去ってくれることを願いつつ澄まして会釈した。
「ああ、お疲れ」
ところが鷹取蓮司は、立ち去るどころか断りもなく私の正面の席に悠々と腰を下ろし、長い脚をゆったりと組んだ。
彼の行動に面食らう。
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