私の抗議を聞いた彼は愉快そうな表情を浮かべて腕を組み、片方の眉を上げた。
「伝わってないか? お互いによく知っている間柄だから釣書は必要ない、と」
顔から血の気が引いていく。
「まさか……」
「そのまさか、だな」
ゆったりと構える彼の顔をまじまじと見つめ返す。
何度目をこすってみても、目の前の悪夢のような光景は変わらなかった。
「いや、だって、私は橘部長だと……」
ショックのあまり、無礼な文句が口から漏れた。
「残念ながら勘違いだろうな。ご指名は俺だ」
鷹取蓮司はまったく残念だとは思っていない表情で笑った。
「そんな……」
絶対に断ることは許されない、家業の存続をかけたお見合いの席。
現れたのは、この世で最も苦手な男だった。
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