黒歴史の男
鷹取蓮司との出会いは四年前にさかのぼる。
当時、大学で経営学を学んだあと白川花壇で経営の建て直しを模索していた私は、父のたっての頼みで橘ホテル東京の中途採用試験を受けていた。
橘グループに取り入ろうとする父の短絡的な手段に納得はいかなかったけれど、長期計画を待っていられない白川花壇の経営状態も理解していた。
大学を出たばかりの当時の私には、傾いた会社を建て直すだけの能力も経験もなかったのだ。
でも打算や義務感だけでなく、実際に花が生かされている現場、そして一流企業の経営術やスピリッツを内部で学びたいという真剣な思いもあった。
慣れないリクルートスーツに身を包み、プレッシャーで胃をきりきりさせながら一次面接に臨む。
そのときの面接官が鷹取蓮司だった。
『白川乃梨子と申します。よろしくお願いいたします』
お辞儀からぎこちなく顔を上げた私を、彼は数秒間見つめたあと、口元だけの微笑を浮かべた。
『白川花壇のお嬢さまですね。いつも弊社がお世話になっております』
言葉遣いは丁寧だ。
なのに彼の顔を見た瞬間、胸がざわついた。
いいざわつきなのか不穏なざわつきなのかはわからない。
どちらかといえば悪いほう──「お嬢さま」という言葉にどこか冷ややかさが含まれている気がした。
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