29人が本棚に入れています
本棚に追加
/121ページ
加藤こと佐藤はテレビ局のヘンジン部長だった
「おはようございます、佐藤さん。県議会で明日から野党が審議拒否するらしいですよ」
佐藤六全は、テレビ局の駐車場で自家用車から降りる。第一報が伝えたのは、早出の緑川章吾だ。
二人は、尾張三河日々テレビで、同じプロデューサー職(部長)だ。しかし、佐藤六全は、転職組で中途入社だった。
新卒生え抜き組の緑川章吾とは、個人的確執があった。しかも、同時にプロデューサー職に昇進したのだ。
確執の内容は、昇進が一緒なのはおかしい。どちらかが言ったと、社内で噂されている。
「おはようございます。緑川部長。それがどうかしたんですか?」
駐車場ではほかの社員たちが、車を止めていた。社員用駐車場の宿命で、一台づつぴったり、間を空けずに止める。奥に止めると出せないので、駐車場担当の警備員が、通勤カードを見て、どこに止めればよいのかを、誘導していた。
人の目があるので、互いに敬語だ。上背のある佐藤が、緑川を見下ろす形になっていた。
「佐藤さん、こういうこと言いたくないけどさ、県議会の中継担当は佐藤さんです。うちの局がするんだよ?」
「番組差し替えですね。もともと、週イチの県議会中継は小さなテレビ局のうちでは、週間視聴率がトップ5に入る、高視聴率番組……」
緑川は人差し指を唇に前立てながら、目をしかめる。
「そういうことは、ぼかして言って欲しいですね」
「営利のスポンサーでなく、公益財団法人や公益社団法人が提供する番組ですから、ぼかす必要ないですよ」
佐藤と緑川の視線が交差していた。
最初のコメントを投稿しよう!