加藤こと佐藤はテレビ局のヘンジン部長だった

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加藤こと佐藤はテレビ局のヘンジン部長だった

「おはようございます、佐藤(さとう)さん。県議会で明日から野党が審議拒否するらしいですよ」  佐藤(さとう)六全(ろくぜん)は、テレビ局の駐車場で自家用車から降りる。第一報が伝えたのは、早出の緑川(みどりかわ)章吾(しょうご)だ。  二人は、尾張三河日々(おわりみかわにちにち)テレビで、同じプロデューサー職(部長)だ。しかし、佐藤(さとう)六全(ろくぜん)は、転職組で中途入社だった。  新卒生え抜き組の緑川(みどりかわ)章吾(しょうご)とは、個人的確執があった。しかも、同時にプロデューサー職に昇進したのだ。  確執の内容は、昇進が一緒なのはおかしい。どちらかが言ったと、社内で(うわさ)されている。 「おはようございます。緑川部長。それがどうかしたんですか?」  駐車場ではほかの社員たちが、車を止めていた。社員用駐車場の宿命で、一台づつぴったり、間を空けずに止める。奥に止めると出せないので、駐車場担当の警備員が、通勤カードを見て、どこに止めればよいのかを、誘導していた。  人の目があるので、互いに敬語だ。上背のある佐藤(さとう)が、緑川を見下ろす形になっていた。 「佐藤(さとう)さん、こういうこと言いたくないけどさ、県議会の中継担当は佐藤(さとう)さんです。うちの局がするんだよ?」 「番組差し替えですね。もともと、週イチの県議会中継は小さなテレビ局のうちでは、週間視聴率がトップ5に入る、高視聴率番組……」  緑川(みどりかわ)は人差し指を唇に前立てながら、目をしかめる。 「そういうことは、ぼかして言って欲しいですね」 「営利のスポンサーでなく、公益財団法人や公益社団法人が提供する番組ですから、ぼかす必要ないですよ」  佐藤(さとう)緑川(みどりかわ)の視線が交差していた。
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