佐藤は女性社員の健診に婦人科もあるのを忘れた

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佐藤は女性社員の健診に婦人科もあるのを忘れた

内田(うちだ)さん」 「部長」  内田(うちだ)と呼ばれた女性は、一瞬びっくり顔になる。内田は新入社員で総務部所属だ。佐藤は部長なので、女性社員たちは、一礼していた。  数人の女性社員がバインダーに挟まれた、健診の問診表を手にしていた。佐藤から離れた位置に座る。佐藤は立ち上がり、気さくな表情で、内田に歩み寄る。内田が立ち上がり、言葉を選ぶようにぼそっと言った。 「部長、今日は婦人科の先生が来られる日で、健診を受けに……」 「婦人科?」  佐藤の婦人科の声が待合室に響く。受付の看護師が佐藤を招きネコのように手招きしていた。ネコに見えない糸で引っ張られるように、佐藤の足が受付に進む。看護師が小さな声で告げた。 「佐藤さん。うちのクリニックは、週2回、婦人科の専門外来があるんです。婦人科の先生は女性です。今日の午後は休診日ですが、健診のためいらしているんです」 「ほー」  佐藤は天井を見上げていた。設備整ってるんだな、とのんきに感心していたのだ。 「若い女性の方は、気にするんじゃないですか?」  佐藤はむっときた。そこまで言うなら、男性、女性で健診日分けるなり、言いかけた言葉を飲み込んだ。  看護師さんに悪いので、処置室に向う隣の扉に入る。その先にある。裏口から局の社屋側廊下に出た。裏口には、扉に医務室と書かれた四角いプレスチックの板まで貼ってある。 「どうせ、僕は、ドラマ制作のはぐれものさ」
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