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管理職の規則破り
社屋の一角には、タレントや来客用の控え室があった。会議室を緑川が使用中だ。片付けられ、殺風景な部屋には、長テーブル二つ揃えて置かれていた。
長テーブルを運や、折りたたみ椅子を運んだのは、日奈子だ。冷房のおかげで、汗は少しかいただけだ。
半分ひらいたままのドアから、佐藤が入ってくる。日奈子は目を見張る。普段はポロシャツに綿パンだが、紺のスーツ姿だからだ。気慣れてない感があり、ネクタイが少し曲っていた。しかも、上衣の裾が短い。
「小手川さん、ご苦労さま。花束は小手川さんから、お渡しして、花瓶には適当なのを私が入れるよ。花瓶も用意してあるね?」
「はい、佐藤部長の適切な指示通り、用意しておきました」
佐藤は××真面目で抜けた性格だ。彼はやや気難しいからね、と緑川が前、言っていた。事前にスケジュールを分刻みで、紙に印刷して渡されていた。尾張三河日々テレビでは、プロデューサーは部長である。佐藤は直接呼ぶ場合は、“部長”と呼ばないと、嫌な顔をする。
遠慮なく、佐藤はタバコを取り出して、口に加える。小手川日奈子は、百均で売っているような、金属性の灰皿を差し出す。
「タバコ吸って良いかな?」
「わたしは、煙は気にしません」
「ありがとう」
「すまないね。緑川部長が、会議室使ってるから、ここで会議することになったんだよ」
日奈子は、肯定も否定もしない。否、できない。ゆっくり歩いて、空気清浄機のスイッチと換気扇のスイッチを入れた。
壁には“禁煙”と貼られているが、佐藤は遠慮なく、紫煙を吐きながら、ケースから、書類を長テーブルの上に並べている。少し、白い紙の上に灰が落ちて、バサバサ手で灰を払っていた。
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