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県議会中継は、尾張三河日々放送では視聴率が高い
「スーツ忘れてね。廊下に誰かのがクリーニング済ませたまま、置いてあったんだ。思い当たる人いる? 女性二人きりだから、ドアは半分以上開いておくように、小手川さん、座って」
「失礼します。背広は、多分、緑川部長だと思います」
佐藤の対面に腰を下ろす。タバコが煙たいが、上司なので言えない。番組差し替えの件を口にしないのが、不気味だ。
「カメラは用意してあるね?」
「はい、そこに置いてあります」
壁際の白いリノリウムの床に置かれた、黒い大きなケースを指した。
「今回は、急遽ここで会議することになったから、大目にみるけど、大事な業務用カメラを、床に置くのは、規則違反で、好ましくないね」
「すみません」
「緑川部長もクリーニング済んだのを、廊下の長テーブルに置きっぱなしなのは、好ましくないけどね」
禁煙の部屋でタバコを吸う上司だが、立場上、逆らえないので謝っていた。佐藤は、タバコを灰皿でもみ消していた。いきなり、佐藤が身を乗り出す。男性の顔が近づき、しかもタバコ臭い。日奈子は座ったまま、背中を仰け反らせそうになったが、真っ直ぐを意識していた。椅子の上で、やや上半身が揺れた。
「明日の県議会中継が中止になったんだ。番組差し替えするんだけどね」
「はい」
日奈子は嫌な予感がする。背筋を冷たい汗が走る。
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