1【出会いの春】~朝比奈航~

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「羽柴洋輝です。さすが、礼儀正しいんだね。ほら、もう頭上げて」    すると、浬は航と羽柴を交互に見た。頬がまた真っ赤に染まっている。色が白い分、彼は赤くなると実にわかりやすい。 「羽柴先輩は、航と、仲がいいんですね……」 「えっ?」 「さっきすごく仲良さそうにしてたんで……。二人は、仲良しなんだなぁって、思って……」 「あぁ、航とおれは中学が同じだからね」 羽柴のその返事に付け足すようにして、航もまたその後に続いた。 「先輩にはずっと世話になってるんだよ。この人がいるから、俺はこの学校来たようなもんでさ」 「あ……、そう、なんだぁ」  浬はそう答えると、すぐに笑みを見せた。 「う、羨ましいなぁ! 仲良くって! それじゃ、今日からよろしくお願いします――」  そう言うなり、浬はくるりと背を向けて、道場の方へ歩いて行ってしまった。楓は仏頂面のまま、最後まで航に睨みをきかせて浬の後を追う。残された航と羽柴は互いに顔を見合わせた。 「羨ましいってさ、航」 「はぁ……」 「素直で可愛い奴だな」  ふふ、と羽柴が言う。彼はちょっと嬉しそうだ。しかし、航は首を傾げた。 「先輩。なんか俺今、まずいこと言いましたかね……?」 「まずいこと? 別にそうは感じなかったけど、おれは。なんで?」 「いや……、何となく……?」  気のせいかな……。なんか浬、すっげえしょぼくれてたような気がする。  『あ……、そう、なんだ』と言ったあの瞬間、浬は落胆していたように航の目には見えたし、見せた笑みはどこか力なく見えた。それが気のせいでなければ、恐らく航が何か気に障ることを言ってしまったのかもしれないが、それには見当もつかなかった。  「気のせいだろ。じゃあ、おれは教官室先に行ってから部室行くから。いつまでもそんなとこに突っ立ってないで、お前も早く着替えて道場行けよ」 「あっ、はい……!」  羽柴にポン、と肩を叩かれる。ハッと我に返り、航は部室へ駆け込んだ。だが、それからしばらくの間、浬のどこか浮かない表情は航の頭から離れなかった。
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