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「羽柴洋輝です。さすが、礼儀正しいんだね。ほら、もう頭上げて」
すると、浬は航と羽柴を交互に見た。頬がまた真っ赤に染まっている。色が白い分、彼は赤くなると実にわかりやすい。
「羽柴先輩は、航と、仲がいいんですね……」
「えっ?」
「さっきすごく仲良さそうにしてたんで……。二人は、仲良しなんだなぁって、思って……」
「あぁ、航とおれは中学が同じだからね」
羽柴のその返事に付け足すようにして、航もまたその後に続いた。
「先輩にはずっと世話になってるんだよ。この人がいるから、俺はこの学校来たようなもんでさ」
「あ……、そう、なんだぁ」
浬はそう答えると、すぐに笑みを見せた。
「う、羨ましいなぁ! 仲良くって! それじゃ、今日からよろしくお願いします――」
そう言うなり、浬はくるりと背を向けて、道場の方へ歩いて行ってしまった。楓は仏頂面のまま、最後まで航に睨みをきかせて浬の後を追う。残された航と羽柴は互いに顔を見合わせた。
「羨ましいってさ、航」
「はぁ……」
「素直で可愛い奴だな」
ふふ、と羽柴が言う。彼はちょっと嬉しそうだ。しかし、航は首を傾げた。
「先輩。なんか俺今、まずいこと言いましたかね……?」
「まずいこと? 別にそうは感じなかったけど、おれは。なんで?」
「いや……、何となく……?」
気のせいかな……。なんか浬、すっげえしょぼくれてたような気がする。
『あ……、そう、なんだ』と言ったあの瞬間、浬は落胆していたように航の目には見えたし、見せた笑みはどこか力なく見えた。それが気のせいでなければ、恐らく航が何か気に障ることを言ってしまったのかもしれないが、それには見当もつかなかった。
「気のせいだろ。じゃあ、おれは教官室先に行ってから部室行くから。いつまでもそんなとこに突っ立ってないで、お前も早く着替えて道場行けよ」
「あっ、はい……!」
羽柴にポン、と肩を叩かれる。ハッと我に返り、航は部室へ駆け込んだ。だが、それからしばらくの間、浬のどこか浮かない表情は航の頭から離れなかった。
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