2【繋がる心】~小笠原浬~

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 速い――!  手元を下ろした瞬間、やはり飛んできた面打ちに対応せんと小手を打ち込んだがしかし、浬の小手打ちは、航の面打ちにまるっきり間に合わなかった。要するに、あまりのスピードとその威力に浬の技は潰されてしまったわけだ。しまった、と思ったその直後、脳天にはずしん、と重い打突が乗った。  航がしっかりと残心を取る。タイミング、打突共に文句のつけようのない一本だった。 「面あり!」  佐伯の声が響く。浬は悔しさを覚えながらも、開始線に戻った。技は読めていた。思考は確かに合っていたのだ。しかし、航の面の威力に浬は勝てなかった。  さすが航――。おれが去年初めて航を見た時の、あの大砲みたいな面だ。  一度狙いを定められて打たれれば、決して逃れられない大砲。彼の面打ちはまさにそういう技だった。自らそれを打たれ、その威力と迫力、スピードを知って、浬は興奮していた。やはり彼の面は大砲だ。まともに勝負をしたら勝てる気がしなかった。だがこのままでは初黒星となってしまう。 まだだ……。まだ、できることはある。時間だって後半分は残ってる。  航の面打ちに対応するのは、今の浬には無理かもしれない。しかし――。 「二本目!」  航に負けない技だって、おれにはある。    二本目の合図の直後、浬はすぐに航に攻め入った。航は先に一本を取っていることで余裕を持ち、冷静さを保っている。彼の構えは崩れることがない。それは想定内だった。 浬はダンッ! と右足を一度踏み鳴らし、彼に打ち込もうとする――フリを見せた。航はそれに反応し、ふっと手元を上げる。    ここだ……。狙える……!  もう一度、右足をわざと強く踏み込む。ダンッ! と音が鳴る。また、航の手元が上がる。  よし、今だ!  浬はすうっと航の間合いに攻め入って自ら手元を上げた。すると、先ほどと同じように航の手元が上がる。その一瞬を、浬は捉えた。右に振りかぶって、相手の左胴を斜めに斬るように打った。その瞬間、パァンッ! と乾いた音が鳴り響く。 「ドォオオオーーッ!」 「……っ!」  それは逆胴、という技だ。通常、胴打ちは相手の右側を打つ技だが、フェイント等で相手の体勢を崩し、左胴にできた隙を狙って打つ。これが逆胴である。 「おおぉ……っ!」  織田の声が聞こえた。しかし、佐伯の旗は視界の隅でまだ上がっていない。浬は残心を取り、必死にアピールをする。  そんな……。一本にならない――?
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