145人が本棚に入れています
本棚に追加
「コウ! お疲れ! いい試合だったな」
コウ……。
「ありがとうございます。まぁ、ちょっと悔しいけど、しょうがないですね」
「お前、船高来るんだろ? 高校でリベンジしろよ」
「はい! 絶対行きます!」
船高――って言ってた……。朝比奈は、船戸高に行くのか……。
市立船戸高校。聞き間違いでなければそこは、浬の地元にある高校だ。部活動に力を入れていて、多くの部は強豪だと聞いたことがある。剣道部も例外ではないのだろう。
ふたりの会話を思い出しながら、ぼーっとパンフレットを眺める。船戸二中、朝比奈航。そこに記されている名前を、浬は何度も何度も読み返した。
「浬、なに見てんの?」
「わっ……!」
不意に肩を叩かれ、浬は肩をビクッと震わせた。浬に声をかけたのは、幼馴染の北条楓 だ。
「今日のパンフレットだよ……」
「ふうん? 妙に真剣じゃん」
「うん……。最後の決勝戦、すごかったからさ」
隣の家に住む楓は、赤ん坊の頃から浬と一緒に育ってきた。もう兄弟と呼んでしまってもいいくらいの仲だ。
「あー、あの武田って奴だろ? あいつバケモンみたいだよなぁー」
「そっちじゃないよ。朝比奈って人の方」
「朝比奈ぁ……?」
「あ――」
しまった――。
浬は慌てて口を噤んで、苦笑する。朝比奈の名を聞いた途端、楓は急にムスッとしてこちらを睨んだ。そもそも今日、浬はこの楓の応援に来ていたのだ。
市の大会の個人戦で準優勝だった楓は、本日行われた県の大会に出場していたわけだが、ベスト八まで勝ち上がったものの、惜しくも敗れていた。相手は朝比奈航。そもそも、市の大会の決勝でも、楓は朝比奈に敗れていたのだ。
「ごめん……。楓が最後に当たったの、あの人だったね。二本とも相面だったんだっけ」
――たしか、そうだった。と浬は楓の最後の試合を思い出す。楓との試合を見ていてわかったのは、朝比奈が面打ちを最も得意としている、ということだった。彼の面は威力も相当強そうだし、とにかくスピードが速い。且つ、絶妙なタイミングで飛んでくる。まるで大砲のようだった。
「だっけ、じゃねえよ……。いいさ、あいつはオレが高校でぶっ倒してやる。リベンジだ!」
楓は腕組みをして、鼻息荒く、そう言った。彼はかなり悔しそうだ。浬はもう一度、朝比奈の眩しいくらいの笑顔を思い出し、パンフレットに記載されている彼の名前を見つめた。
朝比奈、航……か。
最初のコメントを投稿しよう!