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一発。ブランは足が速いけど、たぶん、この一発だけなら入る。アタシが女の子だから。
「歯ァ、食いしばれェ!!」
アタシは身体をひねり、ブランの顔面めがけて思い切り拳を振り下ろした。
バァンッ
車と車が衝突したような凄まじい音が耳を打ち、軽い衝撃波が起こって空気が震えた。さすがに指が折れたかと思うほど痛かったけど、気合で拳を振り抜く。
ブランの身体がすごい勢いで吹っ飛んでいき、大きな音を立てて壁をぶち抜いた。
静まり返ったホールにアタシが息を吐く音と、ガラガラと瓦礫がぶつかり合ってたてた音が響いた。
「そんなっブランボリー様!」
「ブランボリー様!!」
「なんてこと!? ブランボリー様ぁ!!」
メイドさんたちが口々に叫んで武器をかなぐり捨て、アタシの脇を通り過ぎてブランの元へ駆け寄っていく。
アタシはその場にへたり込み、レオの顔の近くに腕をついた。口で大きく息を吸って吐く。酸素が必要というわけではない。苦しいわけでもなく、ドクドクうるさい心臓を落ち着けさせるための深呼吸のつもりだった。
死んでない。大丈夫。死んでない……はずだ。
「……ホノカすっごー」
心を落ち着けようとしていると緊張感のないレオの声が聞こえ、アタシは思わず呆れてしまった。それと同時にほっとしたので何とも複雑な気持ちになった。
「レオ、良かった。意識があるみたいで。一緒に逃げるよ、レオ」
アタシはレオの腕を掴んで引っ張りながら立ち上がった。レオは歯を食いしばりながら上半身を起こした。肋骨が折れているのかもしれない。
「ごめんホノカ。オレ、歩けない。粉々に折れちゃって。足、自慢だったんだけどな……。だから、ごめん。助けに来てくれたのは嬉しいけど、オレは置いていってよ。ホノカだけで逃げて」
レオは袖で口元を隠して微笑んでいた。
アタシはお腹が震えて、レオの表情に泣きそうになった。だってレオは今にも泣きそうで、でもそれを必死に隠して笑っていたんだから。こんな顔をするレオを置いて行けるわけがない。
「嫌。レオも連れていく」
「ホノカ! 分かれよ!」
「分からない!!」
声を荒げたレオよりももっと大声で言ってやった。するとレオは目を細くして唇を噛んだ。金色の瞳が潤む。
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