Red×King×Vampire

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「絶対レオも連れていくんだから!!」  もう一度言ってアタシはレオの背に手を添え、慎重に太ももの下あたりに腕を当てた。 「痛くない?」 「……痛くないけど」  すん、と鼻をすすってレオが答えるとアタシはよし、と小さく言って足を踏ん張った。 「ヨイショォォ! あ、軽い!」 「わ!!」  アタシはレオをお姫様抱っこした。レオ軽い! これならいける気がする! 「揺れるよ! 痛くても我慢してね!」  一応断ったが、アタシはレオの返事を待たずに床を蹴ってお屋敷を飛び出した。それから全速力で石畳を走った。レオは何も言わずにアタシに身体を預け、首に腕を回して抱き着いていた。  石畳は思ったより走りやすかった。走りやすい地面というわけではなく、誰も追いかけて来なかったからだ。たぶんお屋敷の中や周辺にいた吸血鬼たちはブランの元へ駆けつけたのだろう。それくらいみんなブランのことを愛しているのだ。さっきのホールでも誰一人としてアタシたちを気にかけていなかった。 ぴちゃ  門が近くなったところで足が冷たい液体を踏んだ。何だろうと思って少しだけ速度が落ちる。そしてアタシは気づいてしまった。  無数の吸血鬼が倒れている。メイド服を黒っぽい液体で汚した女の子たちが横たわっている。アタシが駆け抜けた石畳の上で。  ダメだった。足が震えて、止まってしまった。こんな光景を目の当たりにしてしまったら、もう考えるなと言い聞かせることが出来ない。  こんな、こんなことになるなんて思わなかった。アタシは、こんな、今まで、映画やドラマみたいな悲惨な光景に出会ったことがなかった。アタシの選択で、こんな悲惨なことになってしまうなんて考えもしなかった。アタシが、戻ると言ったから、彼女たちは死んでしまったのだ。  胸が締め付けられるように痛くなった。きつい鉄の匂いが、しなくなってくる。息を、するのを、忘れてしまう。 「ホノカ!」  レオの声が遠く聞こえた。  自分が、決めたことなのに。自分が、決めたことだからこそ。アタシには、この現実が受け止めきれなかった。
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