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「ホノカ後ろ!」
レオが叫んでいる。
「可哀想に」
突然視界が真っ暗になった。誰かに目を塞がれたと気づいたのは、抱きすくめられたことに気づいてからだった。ドッという音がして、腕に抱いていたレオの感覚がなくなった。
「可哀想に。フェリックスは惨いことをする。僕の可愛い眷族たちが殺されてしまった」
ブランの声が耳元でする。
「ホノカ。大丈夫だよ。僕は怒っていない。僕のところへ戻っておいで。外は怖いよ。僕の傍にいれば、こんなに怖いことはないよ」
細い指がアタシの顎を掴み、振り向かせた。
ブランの綺麗な顔が目の前にあった。真っ赤な瞳に背筋を舐められたが、逃げようとは思わなかった。ブランの目からほろほろと涙が零れていたからだ。ブランが彼女たちのために泣いているのが分かったからだ。
アタシは思わず手を伸ばしてブランの頬の涙を拭きとってしまった。その手を、ブランの手に絡めとられた。
「寂しいよ。みんながいなくなって僕は寂しい。ねぇホノカ。僕を慰めて……?」
ビリリと脳を刺激する声に、突然身体が覚醒した。
「やっ」
まずいと思って身体を引き、彼の手の中から手を抜こうともがいた。しかし、身体はがっちり固められていて動かなかった。
「ホノカ、僕を拒絶しないで……」
ブランがアタシの腰に回していた腕を自分の口元に持ってきた。嫌な予感がして逃げようと踏ん張ったが、掴まれている手が離れなくて逃げられなかった。
まずい。嫌な予感がする。怖い。
「レ、レオ!」
レオを探して辺りを見回した。早く逃げなきゃ!
「んん!!」
くぐもった音が聞こえてそちらに顔を向けると、あの黒髪の美女に掴まっているレオがいた。口を手で塞がれ、両腕を背中でまとめられて馬乗りにされている。美女は余裕とばかりに微笑んでいた。
怖い。アタシはそう思った。だって彼女の笑みには全くと言っていいほど、この惨劇に対しての感情がなかったからだ。ただ、彼女は笑っていた。仲間の無数の死体を前にして。
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