Play×Tag×Vampire

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 恐る恐る目を開けると、その何かは腕であるようだった。色のない腕。この腕は、この感覚は、知っている。ゆっくり顔を上げるとアタシを見下げる彼の顔があった。間一髪、家の屋根の端でギリギリ受け止めてくれたらしい。地に着かない足がぶらぶらしている。 「誰が馬鹿だ」  白髪の間から見える真剣な顔。この人は少しでもアタシを心配してくれたのだろうか。しかしあんなすごい蹴りを入れられたのに怪我はないみたいだった。吸血鬼とはなんとも不思議な生き物だ。鉄やニッケルで出来ているのかもしれない。  アタシがぼうっと考えている間に彼はアタシをひょいと持ち上げて屋根に座らせ、 「デインのことばかりで他の奴のことを忘れていた」  笑った。その彼の横でキラリと光るものが見えた! 「危ない!」  今度はしっかり言えたのに、もう、遅かった。彼に向けられた剣の切っ先は深々と、彼が盾として出した左手に突き刺さってしまった。真っ赤な血が辺りに飛び、アタシの顔にも飛んできた。ぐしゅっ、そんな音がして彼の手から腕にかけて伝った血が、ぽたぽたと屋根を赤く染め上げる。絵の具とかケチャップじゃない、鉄の臭いのする、完璧な血だ。 「けどまぁ、こいつは戦いやすい」  手に剣が刺さっているというのに彼はあのニヤリ顔で笑っていた。そしてあろうことか自らの手をさらに深く深く剣に突き刺していった。ぐちゃ、ぐちゃ、嫌な音を立てて剣は濡れていき、それに伴って大量に落ちた血がますます世界を赤くする。嫌な臭いにあてられたからか、闇に浮かぶ赤がそうしているのか、気分が、悪くなってきた。 「お前、名前は?」  この状況でそれを聞くのか? 睨んで問いかけてやりたかったけど、生憎そんな気分ではない。 「……ほのか」  質問という名目の命令に答えるのがやっとだった。自分では血を見ただけで気分が悪くなるような柔なヤツではないと思っていたのだが、実際は違うらしい。あぁ、頭がクラクラしていて今にも倒れてしまいそう。吐き気も、する。 「俺はアイゼンバーグ。ホノカ、死にたくないなら寄ってくるなよ」  彼……アイゼンバーグはアタシと話しているのに一瞬たりとも男の人から目を離さなかった。その瞳はギラギラ光っていて、まるで飢えた獣のようだ。これはアタシと初めて会った時の目と似ていたが、少しだけ違うような気がする。今の目の方がもっと怒りが……いや、殺意がこもっている。 「やろうか、マリウス」  男の人の右手がアイゼンバーグの首を狙って突き出された。しかしアイゼンバーグはそれを避け、すぐに剣に刺さった左手を引き寄せた。つられて男の人の身体がほんの少し近づき、アイゼンバーグはその横腹に強烈な蹴りを入れた。バキバキと骨の折れる凄まじい音がしたが、男の人は吹っ飛ばされてもいないし表情一つ変えていない。
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