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「人間が吸血鬼の俺に怒鳴るなんてな。だが腰を抜かしたままでは威力半減だな」
また笑う。さらに自分の頭に血が上るのが分かった。コイツは誰かを殺してしまったことをどうとも思っていないのか! おかしい、間違っている! こんな狂ったヤツの近くにはいられない、いたくない! アタシは腕を掴んでいたヤツの手を振り払い、役目を忘れている自分の足を心の中で叱りつけて、ゆっくり、なんとか立ち上がった。
「足がふらついている」
「うるさい!」
一喝し、震える両足を両手で押さえたがそれでも震えは止まらなかった。怖い。何も感じさせない無の表情が冷たくて、真っ赤な姿がぼうっと光っているようで。今までの生活では感じることもなかった恐怖がここにある。だってコイツはあの人を殺したんだから……吸血鬼なんだから。でも怖がるままではいけないのだ!
「命はそんなに安くないんだから! あと君も早く帰って傷の手当てをしてもらえ! アタシはもう、帰る!」
ここがどこだか全く見当もつかなかったが、この際それはどうでも良い。同じ日本なんだからうろちょろしていればなんとか帰れるだろう。とにかくアタシは早くコイツから離れたかった。だからヤツの姿を確認することもなくきびすを返し、覚束ない足取りで歩き出したのだった。
すると三歩も行かないうちに背中から笑い声が聞こえた。アイツのものらしい高らかで天に響く笑い声に驚き、振り返ってみるとヤツはまるで絵画のような綺麗な顔で、どこか可愛らしく、大笑いしていた。瞬間、ホントにちょっとだけ見とれてしまう自分がいる。そんな自分が不甲斐ない。
「アッハッハッハ! 俺を怒鳴っておきながら俺の怪我の心配するのか? 意味が分からないな」
腕を組んで俯きがちに笑う、馬鹿にしたような態度のヤツにアタシはムッとして眉を動かした。しかしもう何も言いたくなくて無視してこの場を去ろうとした。それなのに。
「言っておくが、マリウスは死んでない」
衝撃的な言葉のせいで身体が固まってしまった。
え? だって、だってマリウスってさっき剣で刺されて動かなくなった人だろう? あの人は……あんなにも怪我をしていて血みどろで、通常心臓のある部分を刺されたのに生きているのか?
「……嘘、ホントに?」
油が切れた機械のようにゆっくり振り返ると、あぁ、と言って笑っているアイゼンバーグがいた。静寂の中にクックックックと押し殺したように笑う声がこだまする。いや、だってあの人……アタシはこの目で、見たのに。動揺の所為で視界が右に左に動いている。
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