Play×Tag×Vampire

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Play×Tag×Vampire

「ありがとうございましたー」  夜七時にもかかわらず爽やかな挨拶を背中に受け、アタシはコンビニを後にした。制服を着てはいるが学校帰りではない。ただ着替えるのが面倒でそのままにしているだけだ。  なぜ一度家に帰ったのにこうして買い物に出なければならなかったのかというと、弟の気まぐれのせいだ。夕食を食べ終わったフリータイムに弟が突然生ハムを食べたいと言い出したため、アタシはこうして右手に白い袋をぶら下げて家路を歩いているわけである。  アタシは弟には甘いようだ。我儘を言われると、なんとなく甘やかしてやりたくなるのだ。  角を曲がればもう家は目の前というところで、アタシは妙なことに気がついた。  なんだろう、嫌な臭いがする。鉄……血の臭いだろうか。いや、どうしてまた血の臭いが? こんな住宅街の真っ直中でするような臭いではない。ドラマで起きるサディスティックな殺人は所詮テレビの中の世界だ。この辺りに転がっているはずがない。とするとこの臭いはなんだろう。訝りながら角を曲がった瞬間、アタシは固まってしまった。  アタシと同い年ぐらいの男の子がアタシと同じ制服を着た女の子の襟元を掴み、塀に押しつけていた。  男の子の方は灰色のシャツに黒いズボン、髪が白くてアタシに背中を向けている。女の子の方は全身の力が抜けているようで、項垂れた頭から垂れた長い髪で顔は分からない。視線を這わせてみると、その、黒髪の間から覗く首筋に何か赤いものが見えた。 「ひっ!」  血、だ……! 気づくのにそう時間はかからなかった。でも気づくと身体が硬直し始めて足が棒のようになり、その場に立ち尽くす形になってしまった。  どうしよう、逃げなきゃ。アタシは突然そう思った。だけど、アタシの脳は今すぐ逃げろと危険信号を出しているのに、どうしても身体が動いてくれない。  どうしよう、どうしよう!  そうこうしているうちにアタシの小さな叫び声を聞いて、男の子がゆっくりこちらを振り返ってきた。  唇が、赤い……!  彼の真っ赤に染まった口元を見た途端、アタシは鞭で打たれたように地面を蹴って来た道を走って戻っていた。固まっていた身体がなぜ突然動き出したのかは自分でも分からない。本能がそうさせたのかもしれなかった。 「お前……」  後ろから聞こえた男の子の呟きを頭の中から振り払い、アタシは走った。周りを見ている暇はない。道順を考えている暇はない。
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