Play×Tag×Vampire

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 何あれ何あれ何あれ!  女の子の首から血が流れ、男の子が血に濡れた唇をしているなんてどんなファンタジーだよ!  だって、だってまるで男の子が女の子の血を……いや、そんなことはない。  何だ、あの男の子は。何だ? あの獣のような鋭い瞳は、何だ?  アタシの脳裏で彼の青い目が光った。  怖い!  彼から逃げられる保証はないのにアタシは走るしか、なかった。そうして真っ直ぐ進む道が無くなり、夢中で角を曲がろうとしたとき。 ドンッ  誰かの胸に飛び込んでしまった。一瞬何が起こったのか分からず頭の中が真っ白になり、激しく鳴っていた心臓の音も小さくなった。しかしアタシの中の何かがすぐ、逃げろと叫び出した。  この人、こんなに華奢なのにアタシが思い切りぶつかっても微動だにしなかった。それにこの胸、心臓の音が、全くしない……!  再び心臓が凄まじい速さと音量でアタシの中を爆発させようと暴れ出した。  逃げ、なきゃ……。  固まった足を何とか動かして少しずつ後退しながら、頭を上げる。 「お前、見たのか?」  不自然に赤い唇が、目に入った。中性的でも人を恐怖に陥れるような怖ろしい声もさっき背中で聞いた男の子のものだった。  恐怖、が、アタシを支配する感覚と、血がサァーと音を立てて頭の先から足の先に逃げていく感覚が重なった。がくりと膝を折り、アタシはその場にへたり込んだ。身体に、力が入らない。 「聞いているのか?」  男の子は左手でアタシの胸ぐらを掴み、軽々と持ち上げてあの目で睨んできた。足がつま先立ちになる。アタシは息苦しさに表情を曇らせ、持っていた袋をその場に落として彼の腕を両手で掴んだ。  冷、たい……! まるで氷を触っているみたいだ。 「……うっ」  息が詰まる。少しずつ狭くなる視界には、眉間にしわを寄せ、ギラリと光る青の瞳の中にアタシを捕らえ、赤い唇から覗く鋭い牙で威嚇している彼がいる。  怒って……いる?  アタシは殺されてしまうのだろうか。脳裏にさっきのだらりとした女の子が浮かぶ。嫌だ、死にたくない!
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