84人が本棚に入れています
本棚に追加
「さっきまで俺のことを怖がっていただろ。でも今はデインのことが怖いのか」
違う! 察してくれよ!
今度はブンブン首を横に振った。するとじゃぁ何を怖がっているんだ、と訳が分からないとでも言いたそうな声が返ってきた。これは流石に口で答えなければならない。
アタシは渇ききってカラカラになった口を開けて何とか言おうとした。
「……た……うひゃっ!」
しかし言葉は内蔵がふわっと浮く感覚に遮られてしまった。あんなにも遠かった屋根がすごい速さで近づいてきているのが見える。
降下しているんだ!
アタシはさらにシャツを掴む両手に力を込めた。
男の子はそのまま軽く屋根に着地すると間髪入れずにまた飛び上がったので、アタシはまた空気に押さえつけられた。
まるでジェットコースター、いや、ジェットコースターよりも迫力満点だ。こんな機械があれば良いアトラクションになること間違いなしだが、今のアタシはそれを必要としていない。それよりも早く解放して欲しい。高いところで放り投げられるのはごめんだけど。
「で、どうして怖がっているんだ?」
いつの間にか閉じていた瞼を開けると青い目とぶつかった。
綺麗。唐突に思う。青空をそのまま写し込んでいるのではないかと思うほど澄んでいて、綺麗だ。
「高いところが怖い……から」
瞳に吸い込まれてしまいそうだったけど、落ち着いて言えたと思う。口ももう渇いていないし、なぜか……そう、なぜか彼の瞳を見ていたらうるさかった心臓が静かになった。
アタシが答えると、彼は片眉を上げてすごく不思議そうな顔をした。
「高いところが怖いのか? 俺たちのような吸血鬼よりも? 変わった人間だな」
そりゃぁこの人は初めすごく怖かったし、正直に言えば今だって逃げたい気持ちはある。だって、この人は吸血鬼だ。
ん、待てよ、きゅうけつ……き?
「……きゅうけっ……!?」
驚いて思わず口に出そうとした時、彼が降下し始めたのでアタシは思いきり舌を噛んでしまった。
いってぇ! ごりゅって音がしたよ、今!
「待ちやがれ! アイゼンバーグ!」
アタシが悶絶しているところにさっきのあのお兄さんの声が響いた。どうやら追いかけて来ているらしいのだが、高さを実感しそうで怖くてその姿を確認することは出来ない。
最初のコメントを投稿しよう!