Play×Tag×Vampire

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 男の子が俺たちと言っていたので彼も吸血鬼なのかもしれないな。いやしかし、この男の子とあのお兄さんが吸血鬼だという証拠はどこにも……あった。初めてこの人を見たとき、この人は口元を真っ赤に染め、首から血を流した女の子を塀に押しつけて立っていたのだった。その姿はまさに生き血をすする吸血鬼そのものだ。それに今、人間には不可能な跳躍を繰り返している。加えて夢では無いという証拠の舌の痛み。あぁ、うん、現実逃避したくなってきた。 「デインの奴、諦めないな」  彼は一度後ろのお兄さんの姿を見てからすぐにアタシの方に向き直り、口を開いた。 「お前目は良いか?」  ……この人、何が言いたいんだろう。見たところ彼の目は真剣そのものでふざけているようではない。よく分からないが、まぁ目は良い方だ。 「良いけど」 「だったらデインを見張っていろ。俺は走ることだけに集中する」 「は?」  この人はホントに何を言っているのだ。アタシにあのお兄さんを見張れというのか。この、お姫様抱っこされている状態で、しかも高所で真っ暗闇の中!  いくら目が良くったって限度というものがある。ましてやアタシは怖くて今の景色さえ満足に見られないのに、どうしてお兄さんを見張れようか。 「無理」  きっぱり言い切ると彼は眉をひそめて不機嫌そうな顔をした。そんな顔されても。 「見ているだけでいいのに無理なのか?」  人間のアタシには難しいということが分からないらしい。 「アタシは君みたいにきゅ、吸血鬼とかじゃない。こんな真っ暗闇の中、しかも高いところが嫌いで今の景色も見られないアタシが見張れる訳がない」  言うと彼は無表情にそうかと呟いた。分かってくれたのだろうか。あぁもう、表情だけでは判断しづらい。ホントにこの人よく分からない。分からなすぎる。そもそも吸血鬼という存在自体がよく分からないので、当たり前と言えば当たり前なのだが。  男の子はそれからすぐに降下し、どこかの屋根の上に着地すると素早く丁寧にアタシを下ろした。わりと紳士的である。  久しぶりに足の裏で地面を感じたからか、上下運動が無くなったからか、少し変な感じがする。でも気にしないでおこう。これで解放してもらえるかもしれない。 「目、閉じろ」 「?」  男の子の青の瞳がじっとアタシの目を見つめている。どうして急に? しかもこのまま逃がしてくれる雰囲気ではないらしい。
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