Play×Tag×Vampire

7/49
前へ
/134ページ
次へ
 彼らの力の差は何も知らないアタシから見ても歴然だった。一方的に攻めているのはお兄さんだが、避ける彼の動きはまるで遊んでいるかのようだ。それに敢えて攻撃していないような気がする。決してお兄さんが弱いわけではない、彼が強すぎるのだ。  自分が戦っているわけでもないのに心臓の鼓動を速くして食い入るように二人を見ていると、知らず渇いていた喉が鳴った。 「お前、見えるだろう。問題ないな?」  余裕綽々と言うべきか、彼は突然アタシに話しかけてきた。その間にも彼の鼻先をお兄さんの手が通過しているのに。 「聞いているのか? 見張れるだろ?」  彼がアタシの方をちらりと見た瞬間を見逃さないお兄さんは素早く死角に殴りかかるが、やはり当たりそうで当たらない。さっきからお兄さんの攻撃は空を切ってばかりだ。  あぁ、この分ならアタシの目は必要ないのではないかと思う。いっそこのままアタシを置いて二人でどこか遠くに行ってくれれば良いのだ。しかし彼はこちらの方を向いて、真っ直ぐな目をしてアタシの答えを待っている。  なぜ。すごく不思議だ。 「答えろ!」  彼の命令にビクッと身体が震えた。 「……跳んでるとき、絶対放さないで!」  自分の口から出た言葉に驚いている暇はなかった。アタシの言葉を聞くやいなや彼はお兄さんの頭を素早く鷲掴みにしてそのまま屋根に思い切り押しつけたのだ! 瓦や木材がぐしゃっと音を立てて、なんとも痛そうだった。  うわぁ、顔面からこんにちはするなんて、流石にお兄さんには同情する。 「吸血鬼の俺に放さないでとはな。また変わったことを言う人間だ」  声がすぐ近くで聞こえた。彼はいつの間にかアタシの横につき、腕を回してお姫様抱っこしようとしていたのだった。この人やっぱり怖いしお姫様抱っこはもう勘弁なんだけど、それ以外に方法はないんだろうなと思って身体を預ける。よく考えてみればここに置いていかれてもここがどこだか分からないし、屋根の上から一人で下りられそうもない。それにどうやらこの人はアタシを殺す気はないようだ。  でも、それにしても、あのお兄さんは大丈夫なのだろうか。この人は全く気にしてないみたいだが、頭を屋根に埋めたまま動かないんだけど。状況からして敵であろうが、目の前であんな風にされて心配しないわけではない。
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!

84人が本棚に入れています
本棚に追加