Red×King×Vampire

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 話といっても一方的にフェリックスさんが話して適当に相槌を入れているようにしか聞こえなかったのだが、それでも赤の王は満足なんだろうか。不思議になって顔を上げた。  そしてすぐに後悔した。目を上げたらそこには見たことのない男の人の姿があったのだ。艶のある黒の長髪。長い前髪の間から真っ赤な瞳がこちらを見ていて、胸元の大きく開いた白い服を着ている。服が胸板にぴったり張り付いているのでシルエットが綺麗だった。  ゾッとするほど綺麗な男の人だった。絵に描いたように整った顔。顎が細くて鼻筋の通った女性的な美しさのある顔。 「やっと顔を上げてくれたね」  真っ赤な瞳が優しく笑って、アタシはすぐに顔を下げた。  さっきまでこの赤の王はフェリックスさんの左隣の上座に座っていたはずだ。いつの間に目の前に移動してきたんだ!? 全く気配がしなかったので気がつかなかった。  アタシはすでに何の所為でドキドキ鳴っているのか分からない心臓の音を聞きながらぐるぐる考えた。 「君、名前は何て言うのかな? 僕に教えてほしい」  背中がチクチクする! アタシは咄嗟にフェリックスさんの服の裾を掴んで助けを求めた。 「ホノカだ」 「フェリックスに聞いていないよ。僕は彼女に聞いているんだ。教えてほしいな。君の名前は何て言うのかな?」  ここで答えないと殺される、と唐突に思った。声には変わらず甘い響きを残しているのに、刺すような冷たさがある。 「ほ、ほのかと言います」  我ながら蚊の鳴くような声とはこのことかと思った。 「そう、ホノカ。可愛い名前だね。僕はブランボリー。赤の王だ。ブランと呼んでくれ、ホノカ」  アタシは黙っていた。 「呼んでくれ」  今呼ぶのか。 「ブ、ブラン……」 「可愛い声だ」  あー! 背中がチクチクするー!! 今すぐ掻き毟りたい!!  そうは思えども掻き毟ることなんて出来ないので、アタシは椅子に深く座り直して気を紛らわせることにした。この人の声は苦手だ。甘い声というのはたぶんこういう声のことを言うんだ。
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