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「見たところホノカはフェリックスの眷族ではないようだが、どうしてフェリックスの共としてここへ来たのかな?」
きた、この質問。アタシはちらとフェリックスさんを見た。
フェリックスさんとはあのジェットコースターのような車の中で打ち合わせをしている。アタシはとにかく余裕が無かったので、はい、はい、と返事をしていただけなのだが、なんとか内容は覚えていた。
何も話さないこと。フェリックスさんはまずそう言った。赤の王はアタシのことを詮索してくるだろうが、受け答えはなるべくフェリックスさんがするとのことだった。アタシは黙ってついてこれば良いとフェリックスさんは言った。そして、万が一話さなくてはならないような状況になろうとも、アタシがご主人様探しをしていることは言わないようにと言われた。
それから二つ目。赤の王とは目を合わせないこと。とにかく赤の王とは目を合わせないでほしいとフェリックスさんは言った。そういうわけで、アタシは顔を上げないようにしているのである。
「それは」
フェリックスさんが話そうとすると部屋の扉が開いた。目を向けると、先程の絶世の美女が白い布をかぶせたワゴンを押して入って来ていた。
フェリックスさんは口を閉じる。
美女はワゴンに乗せてあった三つの銀のゴブレットをブラン、フェリックスさん、アタシの順に置いていった。それから銀の取っ手のついたガラスの水差しを持ち、最初にブランのゴブレットにそれを傾けた。水差しの中の赤い液体がゴブレットに注がれる。美女はフェリックスさんのゴブレットにも同じものを注ぎ、そしてアタシのものにも同じものを注いだ。
ふわん、と液体から香りが漂ってくる。
強い鉄の、匂い。
血だ!
アタシは思わず仰け反った。背中に椅子の背もたれが当たる。心臓が早鐘を打ち始める。
「生娘の生血だよ。ホノカには少年の生血の方が良かったかな」
向かいのブランがゴブレットを手に取るのが分かった。ゴブレットが傾き、喉が下る。
血を飲んでいる! 吸血鬼だから当たり前と言えば当たり前なのだが、衝撃的だった。たぶん今のアタシは青い顔をしているだろう。
「あぁ、良いね、この味だ。ホノカとフェリックスも飲んで。空になればいくらでも注がせるよ」
ブランの口がにいっと笑った。唇からこぼれた牙が銀色に光る。
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