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ブランは疑っている。ただの気まぐれでフェリックスさんがアタシをここに連れてきたのではないと確信している。なんとか本当の理由を探ろうとしているのだ。
「見ての通り、彼女は今までの野良と違っている。私も今までこんな野良に出会ったことはないので意見を聞こうと思ったのだ。女性だから、ブランボリー、君なら興味を持つだろうと思って連れてきた。私の思った通り、君は彼女に興味を持っている。そうだろう?」
フェリックスさんが聞くと沈黙が降りた。ブランは細い指でゴブレットを手に取り、手の中でくるくると回している。
とても長く感じる沈黙だった。アタシの心臓が時計の針みたいに十回くらい拍動してからブランは口を開いた。
「そうだね。フェリックスの言う通り、僕はホノカに興味を持っている。ホノカを一目見て普通の吸血鬼とは違うと思った。そしてホノカのことを知りたいと思ったんだ」
コト、とゴブレットが机に置かれた。
「僕はもっとホノカのことが知りたい。もっと君と話がしたいよホノカ。君のことを教えてほしい」
見られている。穴が開いてしまうのではないかと思うくらい見られている。ブランの顔を見ていなくても分かる。
ドキドキする。ブランの怪しく艶のある声がアタシの身体を刺激している。
「ホノカ、僕と話をしよう。君のことを教えてくれ。君の主人を教えてくれないかな」
アタシは唇をぎゅっと結んだ。
答えられない。自分のご主人様が分からないからではない。ここで下手なことを言えば何か恐ろしいことが起こるような気がしたからだ。緊張で心臓がうるさい。強い鉄の匂いの香りの所為か、気分も悪くなってくる。
「顔を上げてさえもくれないんだね」
悲し気な声に思わず顔を上げそうになったけれど耐えた。
「どうやら緊張の所為で気分が悪くなってしまったようだ。今日はもう帰るとしよう。ブランボリー、また来る」
フェリックスさんが立ち上がった。今度はブランもそれを許してくれた。アタシは思わずほっと息を吐いて立ち上がった。我ながら良く頑張ったと思う。
アタシはフェリックスさんの後ろに隠れるようにして歩いた。扉の前まで来るとブランが扉をノックし、外側から扉が開いた。誰かが扉の前にいるようだ。
「今日は来てくれて嬉しかったよ、ホノカ」
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