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ブランが振り返ってアタシを見ているのが分かったが、アタシは答えなかった。
「突然の訪問に応じてくれてありがとう、友よ」
代わりにフェリックスさんが答える。
アタシはこの時、なんだか会話が噛み合っていないような気がしてちょっと面白いななんて思っていた。もう帰れるということでいくらか心に余裕が出来ていたんだろう。
このお屋敷に入ったときよりは少しだけ落ち着いてフェリックスさんの後ろについて部屋を出た。部屋を出たところで桃色の髪の可愛らしいメイドさんに睨まれたが気にせずに歩き、ホールの真ん中辺りまで来た。するとギィ、と玄関扉が開いた音がした。
「ブラン。庭にいた小猫ちゃんを捕まえましたわ」
すごく色っぽい女の人の声がした。フェリックスさんの背中から顔だけを出して確認してみるとあの美女が立っていた。
アタシは驚いた。美女はレオと一緒だったのだ。美女はレオの腕を背で掴んで拘束している。
「ご主人サマ! ホノカ!」
「ホノカ君!」
二人が叫ぶのが同時だったと思う。
フェリックスさんが素早く振り返る。アタシを捕まえようと腕を伸ばしたけれど、アタシの身体は後ろから誰かに引っ張られてしまっていて彼の手は宙を掴んだ。
アタシは数歩たたらを踏んだ。
「えっ」
それだけだと思っていたのに、いつの間にかフェリックスさんとは三メートルほどの距離が開いていた。しかも後ろから白い腕で首を緩く絞められている。肩に手を置かれている程度だったので、簡単に解けるかと思って肩に貼りつく手をはがそうとしたが無理だった。
「捕まえた」
ぞくぞくっと身体が震えた。
後ろからとてつもなく甘い声で囁かれた。それも耳元で。驚いて耳を塞ぎ、その方向を見ると真っ赤な瞳がアタシを見ていた。
あっ。
「やっと目が合ったね」
にこりと笑う、艶やかな顔。どぷんと、ぬるま湯の中に落とされたような感覚がした。
「どうやら君の眷族が僕の領域に侵入したようだね。どうしてそんなことをしたのか、その理由に問題がないと僕が判断するまでそれぞれ拘束させてもらうよ」
「わぁっ!」
足を掬い上げられ、アタシは横抱きにされた。いわゆるお姫様抱っこである。
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