Play×Tag×Vampire

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「ねぇ」  彼がこの場を立ち去ろうとしたときに投げかけると、ぶっきらぼうな声色で何だと返してきた。アタシは下から彼の顔を見上げて質問した。 「あの人大丈夫?」  すると彼は少し驚いたような顔をしてから、もうお馴染みになってきたニヤリ顔で笑うのだった。何かおかしいのだろうか。 「デイン! 気絶していないだろうな!」  彼が呼びかける。すると今まで微動だにしなかったお兄さんが、瓦の音をカラカラと立てて頭を持ち上げた。  生きていた! 「御陰様で」  ぶるぶる動物のように頭を振り払い、お兄さんはのっそり起き上がる。あんなにすごい音がしたのに全く傷が見受けられず無事そうだが、非常に不機嫌らしく眉間に何重ものしわが寄っているのが見える。しかし傷一つ無いとは、吸血鬼は鉄ででも出来ているのだろうか。 「いてぇー。あーもうこの姿やめ!」  お兄さんが叫んだ。  姿をやめるとはどういう事だ?  アタシが首を傾げていると見る見るうちにお兄さんの姿が頭の方から崩れるように無数の小さな固まりになっていった。その塊はバタバタ羽根のある生き物で、夜の黒とはまた違った色をしている。  こいつは、コウモリだ!  何百ものコウモリが群を作って一直線にこっちへ飛んでくる! 「何あれ何あれ何あれ!」  アタシの頭の中は軽くパニックだ。だって、人間が、いや、吸血鬼が? どっちでもいいけどコウモリになったのだ! それも無数の! 驚かずにはいられない! 「見た通り蝙蝠だ」  男の子は呟き、すぐにその場を高く跳んで離れた。  いや、コウモリだってことは見れば分かる! アタシが言いたいのはそういうことじゃない! どうして人の形をしたものがコウモリになるんだと言いたいのだ!  コウモリたちは一度アタシたちがいたところで渦を作り、上昇してこちらに向かって来た。暗闇の中、それも高い位置からなのにコウモリの姿がはっきりと見える。その小さな赤色の目でさえ見えているのだ! コウモリが! えぇ、もうそりゃぁはっきりと! 「何あれ、だって吸血鬼なのに……!」  吸血鬼がコウモリに変わるなんて少なくともアタシは聞いたことがない。人の形をしたものが全然別のものになったり、個体数が増えたり、もうホントに訳が分からない。
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