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はぁぁぁぁもう死にたい。恥ずかしい。なんだか泣きそうだった。アタシのファーストキス……特にこだわりはないけど、こんな形になるとは夢にも思わなかった。謎の喪失感がアタシを襲う。
「顔は動かせるかな。見てごらん」
目を上げるとブランは赤い目を動かして視線誘導してきた。素直に誘導されると、ちょうど誰かが鍵を開けて鳥籠の中に入ってくるところだった。
美青年という言葉がしっくりくる男の子だった。歳はたぶんアタシと同じくらいだと思う。白いシャツに黒いズボンをはいていて、人懐っこそうな顔をした黒髪の日本人だ。目は、焦げ茶色。
この人は人間だ。気づいたアタシは驚いた。まさか吸血鬼のお屋敷に人間がいるとは思わなかったのである。
「人間……?」
「そうだよ。ホノカのエサだ」
「エ、エサ!?」
アタシは思わずブランを見た。ブランはにっこりと笑っていた。
「さっきの生娘の血は飲まなかったから、これの方が良いかと思ってね。どうかな。気に入った?」
ちょ、ちょっと待って。
「エサって。アタシはペットじゃないし、この人は人間ですよね? 人間はエサじゃないんですけど」
人だよ? 人なんて食べられるわけないじゃないか。アタシは眉を寄せた。するとブランは小首を傾げてみせた。
「気に入らない? もっと若い方が良いのかな。それとももっと年をとっている方が良い? ホノカの好みを教えて。用意させるから」
「違う、そういうことじゃないです」
アタシは首を振った。話が噛み合わない。
「アタシ、人なんて食べませんよ」
「ホノカは動物の血が良いの?」
「違います。アタシ、血は飲みません」
ブランは目をぱちくりさせた。
「血を飲まない? どうして? 吸血鬼は血を飲むものだよ? ホノカは吸血鬼だろう? 血を飲まないと灰になってしまうよ」
「確かにアタシは吸血鬼……にならなきゃいけないみたいですが、飲みたくないんです。……特に人の血は。だってアタシはついこの間まで人間だったんですよ? 人間は人間の血が主食じゃないんです。そんなのすぐに受け入れられません。アタシ、突然吸血鬼にならなきゃいけなくなって、仕方ないと思いながらもまだあまり現実味もなくて受け入れられないでいるんです」
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